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「昨日、夢にピエロが出てきた」
「はっ? 何言ってんの?」
例の奇妙な夢を見た、翌日だ。
入ったラーメン屋での唐突な僕の告白に、野乃は目を丸くさせた。
「いや、昨日さ……」
ラミネート加工されたメニューを僕は野乃に手渡すと、「忘れ物」や「金平糖」といったキーワードを混じえながら、夢の内容を語る。
「……つまり、その枕元にある青色の金平糖を食べれば、君は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマーティー君みたいに後悔している過去に戻れるって訳ね」
「実際に、その金平糖が枕元にあればな」
僕が苦笑すると同時に、店員がラーメンを僕ら二人の前に置いた。
ハマグリやアサリをじっくりと煮込む事でダシを取り、醤油で味付けしたシンプルなラーメンだ。
赤みが残ったレアチャーシュー3枚と、芽ネギと煮玉子という簡素な構成が、店主の自信の表れを覗かせるのと同時に、僕の食欲を激しくそそらせる。
「さっきも言ったように、夢だからさ。
起きて、一応ベッド周りを確認したけど、金平糖は無かったよ。
でも、妙にリアルな夢だったんだよなぁ。
普通、夢って起きた直後からその内容を忘れていくもんだけど、昨日見た夢はピエロがどんな服装をしていたとかどんな事を言ったとか、一語一句ほぼ完璧に覚えてんだもん」
「セカオワみたいに、キーボードを弾いてたとか?」
「いや、サーカスに出てくるようなマジもんのピエロで、あんなマスクだけでキーボードって感じじゃなかった」
野乃の言葉に訂正を入れた僕は、割り箸を手に取り、ラーメンをすすっていく。
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