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「おんなじような境遇で生きてきた兄妹がこんなにも楽しそう生きてる。歳だって変わらない」
兄は綾月を黙って見つめ返す。
「なのに、わたしたちって仕返しのことばかり考えて、自分の人生を楽しもうなんて考えたこともなかった。最後に笑ったのって、一体いつだっけ」
綾月は短く息を吐いて続ける。なにか吹っ切れたものがあった。
「ぜんぶ親ガチャのせいにして、親が悪い世間が悪いってせこい生き方をしてきた。確かにどんな親のもとに生まれたかで、人生は大きく変わるとは思う。けどさ」
「メメやタイガのように楽しむことは別だ、と?」
メメもタイガもことあるごとに、面白い面白いと口癖のようにいっていた。
「そう。人生は不平等だけど、人生を楽しもうとする心は平等に与えらてるんだよ」
綾月は東京の夜景に目を細めた。
「わたしたちが犯罪者になるなんてもったいないよ。下ばっか向いてないで、もっと楽しもうよ、この人生をさ」
その語気の強さに圧倒されたかのように、兄は目を大きく開いた。
「あたし。錦生メメに負けないくらい、もっとふざけて、もっと面白がって生きてやるんだから!」
綾月はメメを思い出してピースサインを作った。
「はっはっはっは」
兄が笑った。白い歯がまぶしく光る。
「なぁ、綾月」
「なに?」
「明日は東京プレジャーランドに遊びに行こうか」
兄は照れくさそうにいうと、綾月に負けじと大きなピースサインを作った。
渋谷駅から排出される人達とは明らかに違う色を纏っていた2人が、夜の街を楽しんだ人と同じ色になり駅に吸い込まれて行った。
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