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【5】
結局、土岐マリエのサイン会には間に合わなかった。
一縷の望みにかけて書店に向かったが、イベントは終了していて、本人に会うことすらできなかった。何年も会いたかった人物に会えるチャンスが消えてしまい、綾月は落胆した。
公園での顛末は、錦生メメの自作自演だった。
鉄棒から落ちて気絶してしまったことを、事件性にすり変えれば動画のネタになるとたくらんだらしい。バズるかもしれない––––どんなこともネタにしようとする彼女に、もはやアッパレな気持ちになる。
兄と一緒に、スクランブル交差点を見渡せるビル2階のカフェに来ていた。窓際の席に座り、都会の夜の華やかさを見つめる。
兄は終始無言だった。
綾月は目的もなくスマホをいじくる間、ふと、錦生メメのことが気になり検索した。
すると、彼ら兄妹の悲惨な半生が分かった。
イジメに遭ったこと、親にひどい捨てられ方をされたこと、児童施設で育ったこと––––
具体的なことをいえば、吐き気を覚えるほどの無惨な経験をしてきたことがサイトには書かれていた。
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