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その半生の悲しさに、綾月は共感をした。コーヒーをすする兄に伝えると、彼の表情はひきつり、身体は硬直していた。
兄は家から持ってきたケーキをテーブルに慎重に置いた。
土岐マリエに会えなかったのだから、もう意味はない。そんな思いが伝わってくる。
周囲の視線がないことを確認すると、
カバンから工具を取り出し線を切り、手際よくスイッチを切った。
ケーキは、ケーキ型のプラスチック爆弾だった。
これを作るために、何年もの時間をかけた。
土岐マリエに会うのは、彼女の命を奪うためだった。それは兄妹による、長年に渡る復讐だ。
作家、土岐マリエの本名は時岡毱江。時岡綾月と聡志の実の母親だ。
だが、綾月がまだ幼いころ、毱江は彼らを捨てた。シングルマザーだった彼女は、夜の店で知り合った男と付き合い、家を出て行った。兄妹に、何も伝えることなく。
そこから聡志と綾月の悲惨な人生がはじまる。
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