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境遇はユーチューバーの錦生兄妹と酷似していた。
小学校でも児童施設でもイジメらてきた。子供も捨てた母親を、ずっと恨んで生きてきた。
その恨みが消えなかったのは、土岐マリエが男女のドロ沼劇を描いた小説を書き続けていたことにある。ある作品の一節に、「子供なんてほしくはなかった。わたしはわたしを愛している男にしか愛情をそそげない」とあったのだ。綾月は兄と泣いた。そして、いつかこの女に復讐してやろうと、その機会をうかがい続けてきたのだった。
その機会こそが今回のサイン会だった。
綾月はスマホでユーチューブを開いた。錦生メメの動画が流れた。
彼女は動画の中でも明るい表情を光らせている。実際の人柄と変わらない。
心から人生を楽しんでいるようにみえる。
「ねぇ、もう復讐なんてやめにしない」
綾月は兄を見た。
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