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二時間後––––
東京駅に着くと、綾月は兄の背中を頼りに進んでいった。
激流のような人、人、人。
自由に歩度を変えられる田舎とはちがい、ここでは強制的な歩行が求められる。
こんな所を生活の基盤にしている人がいるのか・・・・・・。信じられない気持ちになる。
赤いパネルに京葉線の文字が見えた。
たしか、その電車に乗れば国内最大のテーマパーク、東京プレジャーランドに行けるらしい。
綾月は一度も行ったことがない。もちろん、行ってみたい気持ちは海より深く心の中できらめいている。来月で二十歳になるのだから、十代のうちに行ってみたかった。けど、今日は目的がちがう。それに、兄にはいえるはずもない。
おそらくプレジャーランドに向かうであろう女子高生たちが、ゲラゲラと笑いながら綾月の目の前を通り過ぎていく。全員が人気キャラの耳飾りをすでに着けている。
いいなぁ――――思わず声が漏れていた。
「どうした?」
兄が訝しげに振り返った。
「ううん。人が多いなって思っただけだよ」
「たしかに、うんざりするな」
兄は前を向くとき、ちらりと京葉線の赤いパネルを見た。だが何もいわずに進み出す。
緑色のパネルが見えた。
田舎者の自分でもその名を知っている山手線に乗り、渋谷を目指した。
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