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目がチカチカするような渋谷の景色に、綾月は肩をすくめていた。
だが、兄は堂々と進んでいく。まるで目的を果たすまでは稼働し続ける人型のマシーンのようだ。
赤信号になったスクランブル交差点で立ち止まると、
「サイン会まではまだ時間があるな」
兄は腕時計を見た。
綾月も時間を確認する。入場の十八時まであと二時間もある。イベントが開催される書店の場所を確認したあとは、散歩をして時間をつぶすことになった。
綾月は好奇心だけをコンパスにして、知らない街の知らない脇道にどんどん入っていく。
さっきまでの人の群れが嘘のように消え去り、静かな道に出た。
「おい、綾月。道覚えているか」
兄が語気に苛立ちを込める。
「大丈夫、大丈夫。あ、そこに公園がある」
綾月は細い道の向こうに、小さな公園を発見した。人影はない。錆びれた鉄棒とベンチだけが見える。
「ここで少し休もうよ」
綾月が公園に入った、その次の瞬間だった。
「キャッ」短い悲鳴をあげ、足が止まった。
「どうしたんだ」
「あそこに人が倒れてるの・・・・・・」
綾月が指した指の先には、水着姿の女の子が倒れていた。
綾月が恐る恐る近づき、女の子の顔を覗きこんだ瞬間驚きの声を上げた。
「えっ!!」
人気ユーチューバーの錦生メメだった。
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