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【2】
岩のような大きな雲が都会の空を覆い出した。
何度も声をかけているが、錦生メメは返事をしない。死んでいるのだろうかと不安になったが、兄が「呼吸はしている」と上下に動くメメの胸を見ながらいった。
なぜ、こんなところで倒れているのか。それよりなぜ、競泳水着を着ているか。見当がつかない。
錦生メメは若者に大人気のユーチューバーで、チャンネル登録も10万人を越えている。
綾月はメメのチャンネルを登録しているわけではないが、彼女がどんな動画をアップしているかはある程度知っている。つまりそれだけ錦生メメは有名で、そんな有名人にこんな形で会うとは、綾月は東京が持つ強大な引力のようなものを感じていた。
「おい、おまえら。オレの妹に何してんだよ」
剣呑な声が公園に響く。
綾月は兄と同時に振り返る。
「メメ! どうしたんだ」
虎刺繍のスカジャンを着た男が走ってきた。砂利がこすれる大きな足音が鳴る。
「大丈夫か、メメ。おい、メメ」
男は膝をついて、妹の肩を揺する。
「テメーら、妹に何しやがった!」
眉間にしわを寄せた男は綾月たちに叫ぶ。
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