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アストラルの博物館で
ここは数多の浮遊島から構成される世界の中央都市、アストラルの郊外にある「魔術博物館」。
天井まで達する本棚には数百年に及ぶ魔術書がびっしりと収められている。
魔術書士見習いのレイラは、ふてぶてしくソファに居座る老人に辟易していた。
「あの、マモン様、閉館の時間は過ぎておりますので……」
「何じゃ小娘、わしのすることに文句でもあるのか? いや、あるはずなかろう」
「お気を悪くしたらすみません。見込みだけでも教えていただけますでしょうか」
「わしをバカにしとるのか? 時間など気にしておったら魔術の真髄にたどり着けるはずもなかろう」
「はぁ、そうでございますね……」
レイラはがっくりと肩を落としてカウンターに戻った。
安定職である魔術書士を目指し就職したレイラだったが、仕事は想像以上に過酷だった。重厚な魔術書の管理で肉体を酷使し、横柄な来訪者の対応で精神をすり減らす毎日。
その日も閉館は深夜となった。老人の散らかした本を片付けながらため息をつく。
――私、こんなことしたかったわけじゃない……。
魔術大学の学生だった頃、レイラは付き合っている男性がいた。共通の趣味を持っていたから、週末にはふたりでスフィ島まで出かけていた。
スフィ島はアストラルから飛行船で半日。その島は風の通り道にあり、たくさんの雲に囲まれている。
ふたりの趣味とは「空釣り」。雲に潜む空魚を疑似餌で狙うスポーツだ。
雲の中はさまざまな生物が浮遊していて、微生物を食べる小魚から、それを食する大魚までいる。無心でルアーを投げ込んでいるだけで、心が洗われるような気がした。そして魚とのスリリングな格闘は、なにより心踊るものだった。
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