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ケルンは船体を急加速させ、一気に魚を追い詰める。
逃げようと身を翻した瞬間、レイラの捕獲網が魚を捉えた。
「よし、入った!」
力づくで網を船に引きずり込んだ。動きを封じられた虹色の魚体が甲板に横たわる。
ふたりともその魚を見つめながら肩で息をしていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……しかしよくやったなぁ、レイラ」
「あなたのおかげだってば、ケルン」
レイラは照れくさそうにサングラスとマスクを外して素顔をさらす。見つめ合った瞬間、妙におかしくなって同時に吹き出した。
いままで離れ離れだったのに、この馴れ馴れしさはどうなのだろう、と。
「まさかお前が大会に参加するなんて思わなかったよ」
「私だって、ケルンがほんとうにハンターになってるなんて想像できなかったよ」
「おいおい、俺の夢を信じてなかったのか?」
「私だって生きていくのに必死だったんだから。――でも、信じられなかった私が悪いんだよ」
「そっか。でもレイラ、相変わらずのお転婆ぶりだったな」
レイラは思わず満面の笑みになる。「相変わらず」は、レイラにとって最高に嬉しいひとことだからだ。
「私、やっぱりなんにも変わっていなかった。あの頃のまま、夢だけ閉じ込めて、大人になったふりしてただけなんだ」
「そっか。まあ、その気持ちが分からなかった俺も悪いんだけどさ」
ふたりともすれ違いから別れにいたった過去を、しみじみと思い返していた。
「ところで、大会は魔術を使ったら失格のルールだったよな?」
「ルール違反は道具への魔術効果付与でしょ? 風の通り道を作るのは問題ないわ。でも――」
レイラは捕獲網の口を緩めて網を開いた。気づいた魚は身をくねらせて勢いよく空に飛び出す。
ひれをばたつかせ、一目散に雲の中へと逃げていった。
「ああっ、もったいないことするなよ! 空魚ハンターにとっちゃ一番の賞金首だってのに……」
「ううん、いいの。私、今日、探していた忘れ物を見つけられたから」
そういって西の空に目を向けると、オレンジ色の光が雲の隙間から差していた。
その光は、あまたの浮遊島を従える世界を燦然と彩っていた――。
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