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釣り大会
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霧のかかる早朝。多くの参加者たちが港に集まっていた。大会の運営陣は揃って目立つカーキ色のジャンパーに身を包んでいる。その中のひとりがアナウンスをする。
「釣行時間は開始の合図から日没まで。魚の大きさと種類のレアさでスコアが決まります。なお、釣り具への魔術効果付与はルール違反ですのでご注意を」
レイラは周囲の参加者の視線を感じていた。サングラスに黒いマスク、それに深く被ったフードのという怪しさ満載の身なりだから仕方ない。ケルンに悟られないためだ。
ライセンスを提示して小型飛行艇に乗り込む。大会が始まった。
飛行艇はカヌーの形をしているが、船底には円盤状の浮遊装置が付いている。回転すると重力を打ち消す魔術が発動する、人工魔術器のひとつ。
原動力は魔力を蓄えた鉱石であるギムレット。手持ちのギムレットの欠片を飛行艇の格納ボックスに投入する。
コレクティブレバーを慎重に引くと、機体は振動しながらゆっくりと浮上した。数年ぶりの運転に全身の神経が張り詰める。
空を見上げると、参加者の飛行艇は思い思いの雲を目掛けて飛んでいく。その中にはケルンの飛行艇もあった。レイラは距離を置いてその船を追いかける。
ケルンが目指したのは、魚のうろこ模様を描いて群集した雲。目を凝らすと、雲と雲の隙間を飛び回る空魚の姿が見えた。
ケルンが言っていたのを思い出す。「空魚の活性が高いときは、うろこ雲が狙い目だ」と。
雲から雲へと移る魚は積極的にルアーを追いかけるらしい。ただ、大物はより大きな雲の中に身を潜め、好機をうかがっているのだとも。
レイラはケルンの狙う雲と同じ雲に向かってルアーを投げ込む。
しばらくすると、まわりの参加者が次々に魚を釣り上げ始めた。激戦の気配だ。
レイラはこの大会で好成績を収めたら、ケルンにかつての裏切りを謝罪しようと心に決めていた。でも、ただそれだけじゃない。「私はあの頃のままなんだよ」と、胸を張って伝えたかった。
けれど、久々の釣りが思う通りに行くはずはない。
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