第2話 麻雀サークル

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     2  オーラスで、アンナはトップ目だった。  対面の武田がリーチをかけてきた。満貫直撃かハネツモでない限り、まくられることはない。アンナはメンツを崩し、現物を切った。  武田のツモ番、一筒(イーピン)に似たスキンヘッドがキラリと光った。 「ツモーっ!」  武田がツモったのは、一筒だ。手牌を開ける。二筒(リャンピン)との並びシャンポンで、役もドラもない。リーチ一発ツモ、以上――と思いきや裏ドラが一筒。跳満のアガリで、武田が逆転トップとなった。 「いやあ、こういうこともあるんですねえ」  武田が、満面の笑みで点棒とチップをかき集めている。苦笑しながら、アンナは精算ボタンを押した。  精算が済んだところで、ちょうどヨシオが到着した。事前に話していたので、アンナは、鶴見に交代してもらい席を立った。 「よう、早かったな。大学の麻雀サークルだって?」 「ええ。アンナさんにぜひ会いたいって。勧誘スペースの撤収が済んだら来るそうです」 「ま、『スパロー』が(にぎ)やかになるのは歓迎だ。相手してやろうじゃないか」  高田が()れてくれたコーヒーを飲みながらタバコを()っていると、三人組がやってきた。彼らがヨシオの言っていた大学生たちだろう。  アンナが自己紹介をすると、三人は緊張した面持ちで、それぞれ自己紹介をした。部長の石塚が3年生で『雀々娘』という麻雀ゲームの7段、同じく3年の鈴木が6段、2年生の土屋が5段だそうだ。7段がどれほどのものかはわからないが、アンナは手を抜くつもりはなかった。  フリーではなく、セットで半荘3回ということにした。学割が利くので、フリーよりも場代が安くなる。  ルールは雀々娘に合わせ、30符4翻と60符3翻は満貫に切り上げない。『白ポッチ』が1枚入っているが、通常の白として扱う。6万点コールドもなし。レートはテンゴのゴットー、門前(めんぜん)祝儀の100円にした。ノーレートでも構わなかったが、学生たちに少しでも緊張感を持って欲しかった。  対局が開始された。打つ前から感じていたことだったが、三人ともリア麻には慣れていない。牌捌きもそうだし、欲しい牌が出ると、顔や仕草に出てしまう。『コシ』というやつだ。仲間内のセットなので、見せ牌も含め、特に指摘はしなかった。  東一局、アンナは倍満をツモアガった。4000・8000と申告すると、土屋が1000点棒を4本出してきた。 「東パツで子が倍ツモした場合、親は8000点ちょうど、子は5000点棒か1万点棒で払った方がいいな。そうすると、誰も1000点棒がなくならない。1000点棒がないと、リーチを打つ時誰かに替えてもらわないといけなくなるからな」  アンナが言うと、三人はなるほど、と(うなず)いた。土屋は1000点棒を引っ込め、5000点棒を出してきた。  その土屋が、次局リーチを打ってきた。4巡後にツモ、倍満に一本届かずの跳満だが、土屋は指を折りながら数えていた。  東三局、土屋が切った三萬(サンマン)に、北家(ペーチャ)の鈴木からロンの声がかかった。99ea060a-6018-4b23-9a6f-8ee698ccc57c 「北・赤で、2000」 「鈴木、カン三萬に取れるからテンパネするよ。2600点だ」  指摘したのは、石塚だ。  三人の中では、石塚が一番打てる。だがやはり、リア麻の経験が足りない。牌効率に忠実で理牌(りーはい)もきれいだから、待ちも読みやすかった。  結局、対局はアンナの3連勝で終了した。セット料金は、アンナが全額出した。 「いやあ、勉強になりましたよ。強いですね、アンナさん」  額の汗を拭い、石塚が言った。 「お疲れ様。三人とも、思ったより打ててたよ。まあもっとリアルで打って、牌に慣れ親しんだ方がいいかな」 「そうですね、経験不足を痛感しました。ここにも、また来たいと思います。水嶋君、入部したくなったらいつでも来てね」 「あ、はい。今日はありがとうございました。お疲れ様です」  挨拶を交わし、三人が帰っていった。やたら石塚が自分の胸ばかり見ていたが、まあ仕方がない。ぜひまた『スパロー』に来て欲しいものだ。 「ヨシオ、アタシんち来いよ。ピザ買って帰ろうぜ」 「あ、はい」  低レートだが、3千円くらいは浮いている。高田に挨拶し、店を出た。  ピザを買い、帰りは中央公園を突っ切った。ヨシオは自転車を押し、アンナの後ろを歩いている。  自宅に着くと、アンナは部屋に入る前に、向かいの家に目をやった。八重桜が咲き始めている。ソメイヨシノは散ってしまったが、八重桜はこれからだ。  部屋のドアを開けた。部屋のゴミは、季節に関係なく満開だ。  今日もまたひとつ、ピザの箱が増えてしまう。  アンナはため息をつき、苦笑した。
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