第7話 麻雀のプロ

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第7話 麻雀のプロ

     1  長いと感じた夏休みも、残り数日となった。  カオリは、所沢の『リターン』で本走中だった。平日の昼過ぎだが、学生も多く、4卓立っている。  9月ももう中旬だが、暑い日が続いている。今日も、外の気温は真夏と変わらない。店内の冷房は少しきつく、カオリはカーディガンを羽織っている。  先月末は、麻雀研究会の合宿だった。合宿といっても、ほとんど観光旅行のようなものだ。部会にはあまり顔を出さないが、行事には参加している。今年は、3泊4日の日程で伊豆へ行ってきた。  合宿の3日目に、地元の雀荘でサークルの麻雀大会を行った。40人を超える大所帯だったが、メンバーの協力もあり、スムーズに進行できた。  その雀荘へ、たまたま静岡市でゲストイベントがあったという岡部ユウイチが、ふらっとやって来た。岡部に見られ緊張しながらも、カオリは優勝した。  岡部にほめられたところもあれば、厳しい指摘を受けたところもある。まだまだ自分の麻雀は、課題が多い。  南三局。3副露している対面(といめん)の阿部は、タンヤオのようだ。カオリは、1枚切れの中を、ノータイムでツモ切った。 「ロン。3900(ザンキュー)の1枚」 「あ……はい」  阿部の手は、発と中のシャンポン、いわゆるダブルバックだった。こういった不注意の放銃をしてしまうところに、われながら甘さを感じる。 「出た~、阿部さんの役牌バック。ほんと阿部さん、バッタ待ちが好きだよね」  下家(しもちゃ)の土井が言った。  バッタとはシャンポンのことだが、初めて聞いた時、カオリは意味がわからず、虫のことかと思った。もともとは、1144や2255など筋のシャンポンのことを指し、バッタもん、つまり偽のリャンメンという意味で使われていたが、やがてシャンポン待ちすべてに使われるようになったのだという。実際に使うのは一部の年配客くらいで、シャンポンもしくはシャボと言う人がほとんどだ。  オーラス、ドラは二索。トップの阿部との差は、2000点だ。  7巡目に、カオリの手はイーシャンテンとなった。7305aac6-b029-427b-96ad-7606127c4016  二萬と一索が1枚ずつ河に切られており、七索は阿部がポンしている。ドラの二索は使い切り、できればリーチもかけたくない。  カーディガンの袖を少し上げて、カオリは六索を切った。  明日、新所沢の『スパロー』へ岡部が来る。カオリも石塚も、アンナと出会ったことで麻雀がステップアップした。そのことを岡部に話したら、興味を持ったようだ。岡部とは一緒に打ちたいが、今回は後ろで見て学ぶことにした。岡部とアンナ、鶴見、石塚の四人で打つ予定で、すでに話は通してある。 (いつか、岡部さんと同じ舞台に上がりたい。岡部さんに、もっと近づきたい)    次巡、上家(かみちゃ)が切った四萬をチーした。三萬伍萬を晒し、六萬切り。 (アンナちゃんにも勝ちたい。胸のサイズほどの差はない……はずだわ)  2巡後のツモ番、親指の腹にザラッとした感触があった。カオリはそっと、手牌の脇に一索を置いた。 「ツモ。500・1000」b2144a32-1b16-4688-9be4-c5d26ce428ef 「かぁ~、(まく)られたか」 「3卓ラスト。優勝は会社です、失礼しました」  精算が済み、次の半荘が始まる。  理牌(りーはい)しながらも、カオリは明日のことを考えていた。
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