第9話 クリスマスプレゼント

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第9話 クリスマスプレゼント

     1  スカートの短さが、気になった。  サンタコスチュームに着替えたカオリは、何度もスタンドミラーで全身を確認した。コスプレをするのは、初めてだ。  スカートの下には、厚手の黒いタイツを穿いている。生脚では寒いし、恥ずかしくもある。 「いいじゃん、似合ってるよ」  パイプ椅子に腰かけたアンナが言った。やはりサンタコスチュームを着ているが、カオリのものより露出が多く、胸が強調されたデザインだ。 「そうかなあ。なんか恥ずかしいよ。アンナちゃんは平気なの?」 「まあ、衣装買ったのアタシだしな。カオリちゃんのサンタコス見たかったし」 「え~、そうだったの。それよりアンナちゃん、脚広げすぎ。パンツ見えちゃうよ」  アンナは生脚で、もう少し脚を開いたら、下着が見えそうだ。 「カオリちゃんになら、別に見られてもいいよ」  言って、アンナが笑った。  今日はここ『スパロー』に、岡部ユウイチがゲスト来店することになっている。店長の高田の頼みで、カオリとアンナは臨時でアルバイトをすることになっていたのだが、コスプレに関しては、今日初めて知らされた。岡部の来店がなければ、確実に断っていただろう。  赤白のサンタ帽子を被り、アンナと控室を出た。 bc9e7143-4b90-4261-8001-d407d02249da 「いや~、二人とも似合ってるよ。今日のイベントは成功間違いなしだね」  サンタ帽を被った店長の高田が、揉み手で言った。鶴見や清水も、サンタ帽を被っている。来週がクリスマスなので、メンバーもクリスマスにちなんだ格好で統一したようだ。 「お、ヨシオも着替えたか。めっちゃ似合ってるぞ」  タバコをくわえて、アンナが言った。店の隅で、トナカイの着ぐるみに身を包んだヨシオが、恥ずかしそうにしている。 「なんで、僕ひとりトナカイなんですか……」  角や目鼻が付いたフードを目深にかぶって、ヨシオが言った。 「いいじゃん。マスコットだよ。場が和むだろ」  トナカイの着ぐるみも、アンナが買ってきたようだ。これはこれでイベントらしくていい、とカオリは思った。 「ヨシオ、トナカイならアンナサンタに鞭で叩いてもらえよ」  ニヤニヤしながら、鶴見が言った。 「そういう趣味はないです……」  どっと笑いが起きる。カオリも思わず吹き出してしまった。  レジの脇には、小さなクリスマスツリーがある。ツリーの頂点にある星飾りを、カオリは指先でそっと撫でた。  しばらくして、ゲストである岡部ユウイチが来た。 「おはようございます。本日はお招きいただき、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします」 「おはようございます。こちらこそ、よろしくお願いいたします」  高田が、岡部に挨拶した。 「小野寺もいるのか。コスプレなんてするんだな」 「おはようございます、岡部さん。これはあの……臨時のバイトで……」 「似合ってるよ。かわいいな」 「え……あ……ありがとうございます……」  赤面したのが、自分でもわかった。岡部を直視できず、カオリは思わず下をむいた。 「やっぱ岡部プロもそう思うか~。コスチュームはアタシが選んだんだぜ。カオリちゃんほんと似合ってるし、カワイイよなあ」 「アンナさんも似合ってるよ。ヨシオ君は、トナカイなんだ」 「僕はマスコットというか、面白枠の扱いです……」 「いいと思うよ。クリスマスっぽいし」 「あ、ありがとうございます」  岡部の言葉に、ヨシオはモチベーションが上がったようだ。カオリ自身も、そうだった。  その後軽いミーティングを終え、雑談しているうちに、開店時間の正午となった。 「おはようございます。いらっしゃいませ!」  高田がドアを開け、外で待っていた客に挨拶した。かなりの人数が並んでいたようだ。今日のイベントは、SNSでも告知されている。  カオリは、岡部と対局希望の客に整理券を渡していった。ほとんどが新規客だ。ルール説明は数名を相手に、鶴見と清水が同時に行っている。  ルール説明を終えると、さっそく卓を立てることになった。整理券の番号が1番から3番までの者が、岡部の卓に入る。4番から6番の者は待機だが、三人とも、岡部の後ろで見学するようだ。今日新規で来店した人たちはみな岡部のファンなので、当然と言えば当然だ。女性客の姿も、ちらほら見かける。岡部は麻雀の実力はもちろん、その容姿も相まって、女性ファンが多い。  岡部との対局まで何回か待つ客のために、フリー卓を2つ立てた。カオリとアンナが、その卓へ着いた。 「お姉さん、ここのメンバーなんですか?」  客のひとりが訊いてきた。同年代の若い男だ。 「いえ、今日は臨時で。岡部さんの、大学の後輩なんです」 「へえ~、すごいですね。かわいいサンタさんだけど、油断できないなあ」 「よろしくお願いします」  親決めをし、対局が始まった。岡部とアンナの卓も、始まったようだ。  いざイベントが始まってみれば、心は軽くなっていた。しかし、手牌は重い。  カオリは445と持っている筒子から、1枚四筒を外した。ターツは足りていないが、この局は、オリでいい。  ほかの卓の様子を見た。アンナは楽しそうに打っている。岡部は、同卓したファンを相手に笑顔を見せているが、瞳の奥には鋭い光があった。やさしいだけでなく、強いところも見せる。そうやって、ファンを楽しませるのだろう。  5巡目に、対面から先制リーチが来た。安牌は豊富だ。  カオリはまず、現物の中張牌から切り出していった。
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