第0話 雌ライオン

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     3  対局が開始された。  席は4戦とも固定。回り親で、1戦目の起家は上家の黒シャツだ。下家がロン毛、対面が福尾という座順である。  (トン)一局、福尾が2巡目に中を仕掛け、さらにカン六索(ローソー)をチー。7巡目に1000・2000をツモった。次局、アンナが先制リーチを打つが、福尾に1000点でかわされる。  東三局、ロン毛がダブ東をポンするが、アンナは徹底的に絞り手を進ませず、その間に黒シャツが、500・1000でアガった。  東ラス、親の福尾から先制リーチが入る。3巡後にツモられ、4000オールのアガリとなった。次局は、ロン毛から黒シャツへ2300点の横移動となり南入。黒シャツから3900をアガり親を迎えたアンナだが、今度は黒シャツに1300・2600をツモられてしまう。  南三局は福尾が3000・6000のツモで、オーラスを迎えた。  アンナの手は満貫が見え2着を狙えるものだったが、黒シャツがロン毛から1000点でアガり、1回戦は終了した。ポイントの算出方法は3万点返しで、順位ウマは10-30である。  2回戦も福尾がトップ、アンナは2着だった。3回戦、ようやくアンナはトップを取った。それだけでなく、黒シャツやロン毛にアシストすることで、福尾をラスに落とした。勝負は、4回の合計ポイントで決まる。最終戦を有利に進めるための戦術だ。  3回戦を終えた四人のポイントは、アンナ+50、福尾+69、黒シャツ-2、ロン毛-117である。4回戦は福尾の着順を気にせず、トップさえ取ればいい。  福尾と目が合ったが、すぐに福尾は視線を逸らし、ハイライトに火をつけた。煙を吐き出す福尾の表情に、かすかな焦りが見える。  アンナはアメスピに火をつけ、煙を深く吸いこんだ。  🀄  4回戦、最終戦だ。  起家は福尾、ドラは三索(サンソー)。この親は、何としても流したい。  ロン毛が、自風の(ぺー)を鳴いた。アンナの手は遠い。唯一の両面ターツを崩し、ドラそばの二索(リャンソー)を切ると、ロン毛からチーの声がした。(さら)したのは一索(イーソー)三索。狙い通りだ。福尾がこちらをチラリと見てきたが、視線を合わせなかった。2巡後に、ロン毛は赤入りの1000・2000をツモった。  次局、親の黒シャツが2000オール、一本場は福尾が700・1300をアガった。そして東三局、親のアンナに手が入る。6巡目で、この形となった。3c6dd043-4989-473e-be29-98fe92644577  ロン毛が切った五索(ウーソー)を、福尾が両面(リャンメン)チーした。切られた七筒(チーピン)をアンナはすかさずポン、打八索(パーソー)。ロン毛が六索七索を(さら)しチー、打九萬(キューマン)。  福尾が、二索をツモ切った。 「ロン。12000」  発声とともに、アンナが手牌を倒す。唇を噛みしめながら、福尾が点棒を出してきた。  その後もアンナはアガリを物にしつつ、局消化のため、他家にアシストをした。しかし、福尾だけがアガれていない。福尾の表情に、明らかな焦りが見える。  オーラス、ロン毛の親。持ち点はアンナ51200点、ロン毛19000点、福尾2400点、黒シャツ27400点だ。  役満と親のアガリさえ気をつけていれば、アンナは優勝だ。黒シャツが跳満をツモるか福尾から満貫直撃なら、トータル2位が入れ替わる。  8巡目に、親のロン毛からリーチがかかった。福尾が追っかけリーチを打つ。さらに黒シャツまでもがツモ切りで追っかけ、同巡での三軒リーチとなった。  アンナは少考した。親にはアガらせたくない。黒シャツには満貫まで、福尾には、倍満までなら打ってもいい。恐らく黒シャツは、福尾からの直撃かつ一発か裏ドラ、あるいはツモって裏ドラが乗らない限り、トータル順位は変わらないだろう。  福尾の視線を感じる。目が合った。親の現物だ。2位が欲しい。顔にそう書いてあった。アンナは、出来面子(メンツ)から親の現物かつ黒シャツの筋でもある、二萬(リャンマン)を抜き打った。 「ロン」  発声したのは、福尾だった。  開かれた手は、リーチ・一発・赤の5200点。アンナの優勝が、決定した。トータル2位をキープした福尾は、大きく息をつき、安堵(あんど)の表情を浮かべている。  口の端で笑い、アンナはアメスピに火をつけた。
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