クリスマスにだべる二人

2/3
前へ
/3ページ
次へ
(ま、俺は幸せだけどね)  心の中で須田はそうつぶやいた。去年は栗田が彼女と過ごしていると聞き、暗鬱とした気持ちでチキンを買って一人で晩酌していた。それに比べれば仕事とはいえ、好きな先輩と過ごせる今年のクリスマスは幸せというものだった。  須田が栗田を意識し始めたのは1年半前。中途で入ってきた須田の教育係が栗田だったわけだが、別に特段仕事ができる人ではなかった。言うなれば普通。普通に仕事をこなし、普通に上司に怒られる普通の会社員という感じだった。しかし栗田は優しかった。そこは普通ではなかった。須田のミスをかばって上司に怒られ、須田の仕事が終わらないときも黙って手伝ってくれた。  ある日須田は栗田に聞いてみた。どうして自分にこんなに優しくしてくれるのか、と。彼は笑って答えた。 「いや、だって初めての教え子だからさ。須田は仕事が遅いわけでもないし、一生懸命じゃん。そんなんならお前のために頑張ってやろうとかいう気持ちも湧いてくるわけよ」  そんなことを笑って言われて落ちない男がいるだろうか、いやいない(反語)。  そんなわけで惚れた先輩と一緒に過ごせて実は結構ご機嫌だったりするのだ。  とはいえ、やはり仕事は辛いもので。集中力が落ちてきているのは事実だった。  コードにカッコを余計に書いた部分があり、そこにカーソルを合わせて消そうとしたが、カーソルが一つずれて違う文字を消してしまった。慌てて直し、今度こそと思ったが、今度はデリートキーを2回たたいてしまい、また文字が消えた。 「…っつ」  自分の思い通りに指が動かなくて思わず舌打ちしてしまった。 「やっぱ俺との残業デートは楽しくねぇか?」  舌打ちが聞こえたのか、栗田が冗談交じりにそう言った。 「い、いや、そんなことないです」  むしろ最高です、というセリフは口には出さない。基本ヘタレな須田は告白する勇気もないのだ。 (しかし残業デート…。デートかぁ…)  そう言う見方もできるんだな、と須田は少し顔が熱くなった。もちろん栗田はデートのつもりはなく、冗談で言っただけだ。ノンケの栗田には須田の気持ちなど知る由もないだろう。つまり完全に須田の片思いなのだ。  ノンケに惚れた時点で茨の道確定なのだが、恋心というやつはどうしようもない。それに今のこの状況も悪くないのだ。 (とりあえずあれだ。告白とかは置いといて。今はもう少しこのまま。ま、来年のクリスマスもこうして二人並んでキーボードたたくのも悪くないけど、二人で家で過ごす方が最高だよな)  来年の俺、頑張れよ。そう思いながら須田も栗田と同様、パソコンの画面に集中するのだった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加