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Q1. どうして?
どうして今、このタイミングで思い出したのだろう。
「英語の教科書、忘れてたっ……」
ノート教科書その他を詰め込んだリュックを背負い、電車に乗って数駅。
そこから徒歩15分ほどの自宅に到着して自室のドアを開けた、その瞬間のことだった。
明日からの中間テスト、その最初の科目が英語であること。
昼休みに隣のクラスの親友・七森菜月(ななもりなつき)に頼まれて英語の教科書を貸したこと。
そして放課後、自分が取りに行くから一緒に帰ろう、と伝えていたことが
一気に頭の中を駆け巡ったのだった。
(どーしよー……)
午後の二限が丸々体育だったこともあり、色々な意味でガックリグッタリした私、榎本実梨(えのもとみのり)は床にへたりこむ。
もともと今日一日、少し風邪気味でぼーっとしていた所為なのか。
授業が終わってからはとにかく早く帰って休むことしか頭に浮かばず、
約束のことも教科書のこともすっかり抜け落ちていた。
もう少し、早く思い出せていたなら。
せめて電車に乗る前に思い出せていたなら。
しかし、いくら悔やんでも自分はこうして帰ってきてしまっている。
時計を見るとホームルームが終わった時間から40分は軽く過ぎていた。
(菜月ごめん、ほんとにほんとにごめんっっ…)
今も教室で待っているかもしれない
菜月に対し、心の中で何度も土下座する。
そしてすぐに連絡を入れようと、急いでスマホをカバンから引っ張り出したその時だった。
ピーーンポーーン
今の状況にそぐわない、呑気で柔らかいチャイムの音が来客を告げた。
(誰?…いやいや、もしかして
菜月??)
ハッとその可能性に思い当たり、
私は急いで一階へと駆け降りたのだった。
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