2人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねえ、ひとつだけ、最後に頼みたいことがあるんだ」
いつもの調子に戻った兵隊さんが話しかけてくる。
「なに?」
「僕を使って、くるみを割ってくれない?」
予想外の頼みごとにぽかんとしてしまう。遊ぼうと誘ってきたくらいだから、てっきりそういうものを想像していたのに。
「君たちを見守るのはとっても楽しいけど、一度くらいはこの口にくるみを入れてみたくて。ほら、一応僕はくるみを割るために生まれてきたからさ」
「……わかった」
頭の中で殻のついたくるみを想像する。願えばなんだってかなうのだから。
右手にはでこぼことした丸いものが握られていた。手を開く。想像したままのくるみが、そこにはあった。
「ありがとう、莉子ちゃん。それを口の中に入れて、背中にあるレバーを下ろしてくれる?」
兵隊さんは口を大きく開けて待っている。
木目がのぞく口にそっとくるみを置いて、言われたとおりにレバーを下げた。
「私の方こそ、ありがとう。兵隊さん」
最初のコメントを投稿しよう!