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リビングには私の腰くらいの高さがあるクリスマスツリーが堂々と置いてあって、木目が波打つダイニングテーブルには色とりどりのごちそうが並ぶ。心なしかこの部屋だけがまぶしいような気がした。いつもの棚の上に置いてある青い瞳をしたくるみ割り人形が、今日だけは珍しく空間に馴染んでいる。
父と英人はすでに席に着いていて、しゃべりこそしないが早く座れと目で訴える。私はそれに従い父の隣に座った。
赤と緑のランチョンマットが互い違いに置かれたテーブルには四つのワイングラス、バラ色のローストビーフの乗ったサラダ、琥珀のようにつややかなチキンレッグ、母の焼いた茶色くて固いパンが並ぶ。胃がキュッと縮こまる感じがした。いつの間にかお腹がすいていたらしい。
「おまたせ~」
シチューを乗せたトレーを持った母がキッチンから出てくる。その声を合図に父はシャンパンボトルと子ども用の炭酸入りりんごジュースの瓶を用意し始めた。マットの上に置かれるシチューには白によく映えるブロッコリーと星形のにんじんが浮かんでいた。
配膳を終えた母が英人の隣に座る。父の手によりぽんっと音を立てたボトルからふたりのグラスにシャンパンが注がれた。私と英人のグラスにもそっくりな色の液体を注いでから、私をのぞく三人が顔を見合わせた。
「写真とりましょ!」
母の声。恒例だった。向けられたスマホにとりあえずピースをしておく。できるだけ楽しそうな笑顔を作って写真に写った。
「じゃあいただきまーす!」
英人が早速チキンに手を伸ばす。父と母は困ったように笑いつつもとても幸せそうで、それを見ていると私も自然と表情が緩むのを感じた。けれど同時に心の一部が冷めていくような気もした。
振り払うように「いただきます」と言ってから、スプーンを手に取り火傷しそうなほど熱いシチューを口に運んだ。
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