青い夜にくるみは割れて

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 並んだお皿が空になった頃、母は冷蔵庫からケーキを出してきた。真っ赤ないちごがトッピングされたブッシュ・ド・ノエル。粉砂糖がふりかかっていてまさにクリスマスという見た目だった。  英人は目をキラキラさせていている。その輝きを中心に我が家はまわっていた。母は一枚写真をとってからナイフを突きたてる。綺麗に四等分、ではなく、食べ盛りの英人用にわざとひとつだけ少し厚く切り分けた。  白いお皿に切り分けられた自分のぶんのケーキを見下ろす。ココア味のクリームを茶色がかったスポンジで巻いてあって外側にはさらに同じココアクリーム。丁寧に木の皮の模様も刻まれている。  ためらうことなくフォークを落とすと、ふわふわのスポンジは少しつぶれた。一口大にしたものを口に入れる。生地もクリームも甘さが淡くて、いくら食べても太らないんじゃないかと思えるくらい。でもちゃんとそれはおいしいケーキで、紛れもなく母の味だった。
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