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ケーキを食べ終えた父と英人はソファーに移動しバラエティの特番を見ていた。私はクリームまで綺麗にさらわれた四枚のお皿を重ね、洗い物をしている母のところへ運ぶ。そのまま母が洗った食器を受け取り、拭いた。
「今年のパーティーはどうだった?」
心臓が跳ねる。
「おいしかったし楽しかったよ」
「そう、ならよかった」
簡単な返事しかできなかったが、母は満足そうに微笑んだ。それから視線を手元に落として静かな声で話す。
「莉子、来年は受験生でしょう? 今日みたいにみんなでゆっくりクリスマスを過ごすのは、ひょっとしたら最後かもしれないと思って。だから、喜んでもらえて嬉しい。……もう、どこの大学とか、なに系の学部とか、決めてるの?」
「まだ具体的には。でも、なるべく上を目指そうとは思ってる」
「そう」
微笑む母の横顔は、船から降ろした錨が砂地に深く沈むような安心感を生んだ。
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