青い夜にくるみは割れて

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「――きて。起きて。莉子ちゃん」  誰かの呼ぶ声がする。少年の、高い声。知らないはずなのに、どこか懐かしい声。ゆっくりと目を開く。大きな青い瞳が視界に飛びこんできた。 「ぅわぁっ!?」 「おはよう莉子ちゃん。素敵な聖夜だね」  全然素敵じゃない。赤い軍服を着た人形に無理やり起こされたのだから。そもそも人形に起こされるとは? 混乱する頭の中で唯一理解できたのは、この人形が我が家のリビングに置いてあるあのくるみ割り人形だということだけだった。  じっと目を見てみる。人形は口を開けたまま止まっていた。やっぱりあれは気のせいで、そういう夢を見ていただけだったのか。 「あ、ごめんね。驚かせちゃった? 僕はずっと君たちを見てきたけど、君にとってははじめましてだもんね。僕のことは兵隊さんと呼んでくれたらいいよ。僕はこの家を守る兵隊さんだからね!」  違った。口を上下させながら、確かに私を起こしたあの声を発している。それにしてもよくしゃべる人形だ。あまりにも非現実的な光景にむしろ冷静になってしまう。 「えっと、兵隊さん? 君はどうしてここにいるの?」 「決まってるよ! 君と遊ぶためさ!」 「あそ、ぶ……?」 「そう。今夜は特別だから。願えばなんだってかなうんだよ」  なにを言っているんだろう。声は耳によくなじむのに、言葉がうまく飲みこめない。 「ねえ莉子ちゃん。君の願いはなあに?」  私の、願い……。頭の中をかき回してみても見当たらなかった。強いて言うなら。 「大学受験に困らない学力?」 「それはこれからの莉子ちゃんががんばることでしょ? そうじゃなくて、もっと、こう、さあ? やりたかったこととか、ほしかったものとかないの?」  そんなこと、急に言われてもわからない。もう一度、今度は頭の中をさかのぼってみる。記憶の中にひとつ手応えを感じた。 「テニス?」
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