忘れもの

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あなたがたは世の光である。 あなたがたの光を人々の前に輝かしなさい。 マタイ5章14-16節 ********  僕たちは生まれてくる前、神様から二つの物を与えられる。  一つは長所。もう一つは欠点。  長所は気に入っていたが、欠点は気に入らない。こんな物はいらない。  僕は忘れたふりをし、欠点を置いて世に生まれようとした。  「おい、お前、忘れものだぞ」と神様は僕を呼び留めた。  ちぇ、やっぱり神様を誤魔化すことは出来ないか、と僕は落胆した。  僕は思い切って本心を言った。「欠点なんて いりません」っと。だって長所だけなら嬉しいのに、欠点なんて邪魔なだけで荷物になるだけだ。  しかし神様は言った。  「長所は自分を輝かすために、欠点は相手を輝かすのに必要です。両方持って行き、世を光で満たしなさい。それが世に生まれる理由です」    結局、神様に説得させられ、僕は長所と欠点の二つを与えられ、この世に生まれてきた。  もちろん、このときの神様とのやりとりは、生まれたときには記憶から消えていた。 ~~~~~~~~  僕が生まれた国はでは、年に一回、祭典が開かれる。その祭典には8名の代表が選ばれ、世界に羽ばたけるチャンスが貰える。8名に選ばれることは、とても名誉なことであり、僕らは皆、子供の頃から代表になれることに憧れている。  街の子供たちの中で、僕の長所は際立(きわだ)っていた。  僕の長所は脚力。同じ年代の子と比べ、僕は走るのが速かった。ジャンプ力も一番だった。  「なんで君は、そんなに足が遅いんだ?相手にならないよ」と僕は勝ち誇り、隣の子に向かって言った。  「足が速いルドルフ君のことが羨ましいよ」    僕は他の子とも競争した。今度はジャンプで勝負だ。  「なんだ君は、この高さも飛べないの?」と僕は、また勝ち誇る。  「ルドルフ君には(かな)わないよ。もう降参だ」  「ところでルドルフ君、君の見た目は……」とジャンプで負けた子は、僕に何か言いたそうだった。。  しかし僕は、「なんだ?」と即座に睨んだ。    「いや、なんでもないよ」  その子は言いたいことも言わず、そのまま、そそくさと去って行った。  僕は、街の子供たちの中で一番のリーダーになった。みんな、僕に一目置いていた。もう誰も僕には勝てないと思って、僕に勝負を挑んでくる子はいなかった。  月日が経ち、僕は子供から大人になりつつあった。体も成長し、大きくなった。    そんなある日、僕は選考メンバーに招待された。誰もが憧れる、一年に一回の祭典への扉だ。  選考メンバーは、8名の代表に選ぶ前段階で、国中から30名が招待される。僕はその30名の選考メンバーの中に入れたのだ。僕の街では選ばれたのは、僕だけだった。  そして30名の選考メンバーは、これから強化合宿を行い、その中から最終的に8名に絞られる。  僕は絶対その8名の中に入るんだ、と心を燃やし、強化合宿に臨んだ。  その強化合宿に集まったメンバーは錚々(そうそう)たるメンバーだった。  いろんな街から優秀な奴だけが集められたのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが、僕の脚力なんて中の下ほどの実力だった。  だが僕は、全然、落ち込んでなかった。むしろ燃えていた。必ず、この合宿で鍛えて、代表を勝ち取る覚悟を持っていた。  合宿が始まると、いろんな奴が集まっていることが段々と分かってきた。  もちろん足の速い奴もいるけど、それだけではなかった。ジャンプが凄い奴やダンスが出来る奴。他にも、カッコ良くてオシャレな奴や口が達者な奴もいた。  ある日、口の達者な奴が僕に話し掛けてきた。  「ルドルフ、君の見た目……」  「なんだ?」と僕は睨む。  僕としては、相手にその続きを言わせないつもりで睨んだのに、口の達者な奴はお構いなしだった。  「みんなと違うね」  それを隣で聞いていたジャンプの凄い奴も同調した。  「俺も思っていた。ルドルフって、見た目がみんなと違うよな」  僕の周りにいた他の奴も言い始めた。  「確かに。ルドルフだけ違うよね」  最後に、オシャレな奴がトドメの一言を突き刺した。  「ルドルフ君、君、変だよ。ハハハハハ」  オシャレな奴が笑うと、みんなも一斉に笑った。  この日を境に、僕は欠点のせいで笑い者になった。  僕の代表への熱い気持ちは、たちまち萎んでいき、次第に合宿練習にも参加せず、部屋に引きこもるようになっていった。  そして一年に一回の祭典が近づいた日、監督が僕の部屋を訪ねてきた。    部屋の中に突然、監督が立っていたので、僕は驚いた。物音一つしなかったので、僕は気づきもしなかった。  「ルドルフ、どうして練習に来ないのだ?」と監督は言った。  「練習したって無駄だよ。僕は8名の中には入れない」  「どうして8名の中に入れないと思うんだ?」  「だって僕より足の速い奴がもっといる」  「まあ、足が速いことに越したことはないが、代表の8名は、足の速さだけで決めているわけではないよ」と監督は答えた。  「じゃあ、どう決めてるの?」  「詳しいことは、お前だけに話すと不公平になるから言えないけど、8名全体のバランスを考えて決めてるんだよ。だからルドルフ、お前にはまだまだチャンスがあるんだよ」  監督は僕を励ましてくれたが、僕は(かたく)なに動こうとしなかった。  「なんで、まだ布団をかぶって丸まっているんだい?さあ、外に出よう」と監督は言った。  「嫌だ」  「どうして?」  「だって、みんなに笑われるから」  僕は監督に打ち明けた。僕の見た目が他とは違うことで、みんなから笑われてることを。それが嫌で、僕が外に出ないことを正直に伝えた。    「こんな欠点、無ければ良かったのに」と言って、僕はシクシクと泣いた。  監督は何も言わず、僕の背中を擦ってくれた。  しばらくして僕が泣き止むと、監督はゆっくりと喋り出した。  「ルドルフ、自分の欠点を武器にしろ」と監督は言った。  「欠点を武器?」と僕は訊き返した。  「そうだ、誰しも自分の欠点なんてものは隠したい。しかしその欠点を受け入れ、さらけ出せば武器になる」  「欠点を武器にするなんて、そんなの恥ずかしい」  「そうだね。みんな欠点を武器にするなんて、恥ずかしくて嫌なことだ。でもね、これが出来れば無敵になれる」  「無敵?」  「長所を活かす奴はいっぱいいる。長所は活かせば、自信につながり、周りから羨ましがられ、成功することができる。しかし、そこには競争や足の引っ張り合いもある。だけど、欠点を武器にすれば、心は広がり、周りから愛され、幸せになれる。周りから愛されるのだから、敵なんていない。だから無敵になれる」  僕は監督の言葉を聞いて、しばらく考えみる。自分の欠点をさらけ出して武器にしているところを。想像するだけでも怖い。  「僕に出来るかな?」と僕は監督に訊いた。  「そうだね。これはとても勇気のいることだ。強くて優しい奴だけしか乗り越えれない課題だ。だが私は君がやってのけると信じている」  監督はそう言い残すと、僕の部屋から出て行った。部屋から出るときも、物音一つ立てないので、僕は驚いた。    次の日、僕は合宿に再び参加することを決めた。勇気を出して一歩踏み出した。  周りの目が気になった。みんなが僕の欠点を見ているような気がした。でも僕は堂々と振る舞おうと決めた。監督が信じてくれてるのだから。  そして、ついに祭典の日かやってきた。  監督から、代表の8名の名前が呼ばれる。  「ダッシャー。ダンサー。プランサー。ヴィクセン。コメット。キューピッド。ドナー。ブリッツェン」  8名が呼ばれてしまった。僕の名前は呼ばれなかった。僕はがっくり肩を落とした。  呼ばれた奴は前に出て二列に並んだ。みんな誇らしそうに見えた。僕は落ち込んだけど、合宿で共に過ごした仲間だから、みんなに賞賛を送った。  「今年は特別にもう一名」と監督は言った。そして名を呼んだ。「ルドルフ」と。僕の名前だった。  周りから歓声が起こった。みんな僕を褒めてくれた。    「ルドルフ。お前には先頭を任せたい。きっとお前の鼻が役に立つ」  そう言うと、監督は僕の首元に抱きついてくれた。  「サ、サ、サンタ監督」と僕は嬉しくて泣きながら監督の名前を呼んだ。  今夜、僕たち9名のトナカイは、世界に羽ばたける。サンタを乗せたソリを轢いて。そこにはたくさんのプレゼントがある。人間の子供たちを笑顔にするプレゼントが。   ******** 『赤鼻のトナカイ』 真っ赤なお鼻の トナカイさんは いつもみんなの わらいもの でもその年の クリスマスの日 サンタのおじさんは いいました 暗い夜道は ぴかぴかの おまえの鼻が 役に立つのさ いつも泣いてた トナカイさんは 今宵こそはと よろこびました
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