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百夜参りの噂(2)
「『百夜参り』って、知ってるかい?」
「百夜参り? あー、なんか似たような名前聞いた気が……」
「それは丑の刻参りだろうね」
首を捻る俺に、呆れたように九重が返した。別に、一般常識とかじゃないだろうに、何故そんなに俺を馬鹿にしたような顔をするのか。しかし、そんな顔も様になるのだからイケメン様と言うのは全く凄いものだ。
イケメン様に関心半分諦め半分の感情を抱く俺に気づいていないのか、気づいているが意にも介していないのか、九重は表情を変えずに話を続けた。
「丑の刻……昔の時間の言い回しで、だいたい午前一時から午前三時くらいだね。その時間に神社の御神木に憎い相手に見立てた藁人形を釘で打ち付ける儀式のこと。連夜この詣でをおこない、七日目で満願となって呪う相手が死ぬって、聞いたことない?」
「ああ、怪談とかでよくあるやつな」
「『百夜参り』は丑の刻参りが語源だって言われてる噂だけど、呪いとかじゃないんだ」
そのまま話を続けようとした俺たちの背筋に、冷たい視線が突き刺さる。視線の方向を探ると、その先にいたのは課長だった。
「さっさと仕事をしろ」
目がそう物語っている。
この話は後にしよう。
俺たちはそう目配せをして、目の前の資料の山に取り組んだ。
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