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叶えられた願い
「……た、そーうーた!」
自分を呼ぶ声がした。
最初は遠かった声が、だんだん近づいてくる。
ああ、うるさい。
「るっさ……」
「あーもう、仕事遅れるよ!」
「んあ……?」
仕事に遅れる。
その一言で、反射的に起きなければ、と目が覚めてしまう。
まだ寝てたいのに、と思いながらのそのそと起き上がると、そこはよく見慣れた自室だった。
「…………いま何時!?」
「七時三十八分。まったく、七時半には起こせって自分で言ったんだから、ちゃんと起きてよ」
水色のワンピースの上にオレンジ色のエプロンがよく似合う、俺の最愛の妻の深山小町は事態を把握して慌て出した俺にため息をついた。
「わり、寝過ぎた……」
「シャンとしなよ。今日も仕事でしょ?」
「起きないと、やべえ……」
寝ぼけた目を擦りながら朝食をかき込み、慌てて支度をして家を飛び出す。
「っと、やべえ。ここを右に行って……」
しかし、真っ直ぐ会社には向かわず、家を出てすぐのとこにある路地に入る。その先にあるのは、寂れた神社。
いつからかは覚えていないが、俺は毎朝ここに来て参拝をするのが日課になっていた。
いつも通り、小町に叩き込まれた作法に則って参拝を行う。
ガランガラン。
鈴が大きく揺れる音を聞きながら、二礼、二拍手、一礼。
「……あ、定期忘れた!」
突然頭に降ってきた重要事項に、俺は踵を返して神社を後にした。
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