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俺は、待合室で昨日のことを振り返る。
下校前のほんの短い時間、クラスメイトの女子、子安さんに声をかけられたんだ。
「息、吸えてるの?」
吸えてるに決まってるじゃないか。
吸えてるからこうしてしゃべってるんだろ。
「なんでそんなこと聞くんだよ」
俺は新手の嫌がらせかと思い、質問に質問で返した。子安さんと絡むのは先月の日直以来のことだ。
「うちのお姉ちゃんね、病院に行って楽になってさ、酸素濃度が人生変えたって大喜びしてたんだよね。だから、神崎くんもさ、親に連れてってもらいなよ、耳鼻科──。
あ……それとこれ忘れ物、神崎くんのでしょ?」
俺が机に置き忘れたティッシュ箱……ありがとう。
でも正直なところ子安さんが何を言っているのか分からなかったが、走り去る彼女の背中を見て思った。
そんなに走って息苦しくないのかな。
そして、ふいに俺の脳内に強烈なワードが刺さる。
──酸素濃度と耳鼻科。
俺は急にむせこんだ。げぼげぼっ。
普段から慣れている口呼吸に、思わず鼻呼吸をプラスしてしまったからだ。鼻の奥に呼吸とともに入り込んだグリーンが、俺の通気口を塞いだために起こった現象だ。
ふぅ、危うく溺れるところだったぜ。
──耳鼻科?
なぜこの俺が耳や鼻を気にしなければいけないんだ。
俺は下駄箱から靴を取り出し、外に出た。今日は荷物が多いから、少し疲れるな。まったく、マスクと口呼吸は息が上がって仕方がない。
──ん? 酸素濃度?
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