きよい、この夜

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『今、何してる?』 突然、メールが届いた。一年前に別れた彼からだった。 理由もなく「別れよう」と切り出され、訳がわからないまま私たちは破局した。 ショックでずっと立ち直れなかったというのに、今さら何だというの? 私は返信はしなかった。 今日は十二月二十四日。クリスマスイブだというのに、私だけはただの日常と同じ。いつもと変わらない時間が流れるだけ。 仕方がないからバイトに向かう。町中がクリスマスムード一色だ。昼間からあちこちにクリスマスソングが流れ、そこらじゅうにサンタやトナカイで溢れている。 きれいに彩られたイルミネーションの下には、恋人同士が手を繋ぎ、家族は揃ってサンタの乗っているクリスマスケーキを手にしている。 バイト中の私もトナカイになっているが、サンタの格好をした子どもに、鼻が赤いと笑われた。 サンタへの願いを告げる子どもたちは、親に期待と不安を募らせている。 私は空を見上げて、思わずため息をもらした。大人になると、願い事なんてしなくなる。叶えられるものには限りがあり、限界があるのを知っているからだ。 イルミネーションが夜の町を彩っているが、私はここに来るまで避けるように歩いてきた。
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