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なのにさきちゃんは、
さきちゃんは、
ただ、
「あ? こいつ、泣いてんの? あれ? 涙? うわー!泣いた!こいつ泣いてやんの! 」
5年生三人と、そして僕をいじめていた一人が、勝ち誇ったように笑った。声を上げて笑った。
人形みたいに生気を失ったさきちゃんの頬に、ただ冷たい滴が反射していた。
さきちゃんのお父さんが刑務所にいるのはさきちゃんのせいなのか?
さきちゃんがビデオ出演したのはいけない事なのか?
ああ、そうなんだ。なんとなく僕はそう思った。
とても冷静に自分を見つめている僕がそこに居た。
ごくごく冷静に穏やかに、かつてない程の怒りに身を痛々しく焼かれながら上級生に飛び掛かる僕を、外から眺めている感じだった。
僕は獣みたいに声を上げている。喉を潰して絶叫しながら、ただただがむしゃらに両腕を振るっている。
飛び掛かって頭突きをかました相手に馬乗りになって、ろくに振るった事も無い拳を何度も何度も上級生の顔に、ろくに狙いもつけず暴れるように振るっている。
突然の事に驚いて対処できなかった相手が事態を把握した時には既に戦意をなど持てなくなっている程の勢いで。
正気を失った僕が鼻血まみれの相手の顔の形を変えて行くのをなんとなく落ち着いて見ていた。
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