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「なんかさ、ケンタ、見直した。あいつら撃退するなんてさ、なかなかやるじゃない」
背中に手を添えたままゆっくり前に回って来て、さきちゃんが僕にそう言って屈みこむと、ハンカチで涙をぬぐってくれた。
「勝った男が泣かないの」
もうさきちゃんの頬は濡れていなかった。ハチマキの無いさきちゃんはいつもと随分雰囲気が違っていてなんだか戸惑った。
さきちゃんは本当に格闘ゲームの主人公に憧れて鉢巻きを締めていたのかな。
もしかしてさきちゃんは女子として見られるのを避けていたんじゃないのかな。
よく分からないけど、さきちゃんは事情があって出たく無いビデオに出なくちゃいけなくなって、それがとても嫌だった事で、だから女の子である事を拒否していたんじゃないのかな。
ふとそんな事を思ったら、僕は落ちていたハチマキを手にしていた。
まだかがんでいたさきちゃんを前にして、僕はおもむろにそれを結んであげる。特に何か考えてって事じゃなかった。
そうすべきなんだろうなと思ったんだと思う。
ただ、僕はバカだった。だってそうだ。さきちゃんと向かい合ってハチマキを結べば、それは格闘ゲームの主人公の様なハチマキにはならない。
さきちゃんをちょっと見下ろす感じで縛ったから斜めになっているし、結び目は前髪の上にあって、しかもちょうちょ結びだった。
おかげで僕の前に居るのは格闘ゲームの主人公では無くて、可愛くリボンを付けた女の子だった。
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