ー1ー

1/1
前へ
/7ページ
次へ

ー1ー

 ピンク色の壁紙に、大小の星が濃淡で印刷されている。天井は面白味のない白だから、つい退屈しのぎに星の数なんか数えてしまう。21、22、23……24。星を辿ると、部屋の入口脇のカレンダーにぶつかった。上部1/3には世界遺産の荘厳な教会の写真があり、その下に数字が大きく並んでいる。幾つか赤い丸印が付いており、今日――「25」の周りも囲まれている。 「ふぅ……あ」  いつも違う身体の変化に、息を吐いた途端、もっと奥の深いところから発せられた信号を感じた。いけない、これは。  枕の横のナースコールを素早く押す。 「須郷(すごう)さん、どうされましたか?」 「あ、あの……多分、みたいです……」 「分かりました。伺います」  柔らかな看護師の声が微かに引き締まる。額にじんわりと浮いた汗を掌で拭うと、私は視線を窓の外に向けた。冬の淡い水色の空からチラチラと細かな影が落ち、カーテン越しに動いている。  ああ……今日も雪……。  強く確かな信号に顔をしかめながら、私は左右の掌で固くシーツを握り締めた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加