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「ねぇ、(めぐ)ちゃんって、クリスマスが誕生日なんでしょ?」 「うん」  あれは、中学生の頃だったか……終業式を4日後に控えた12月22日。友達の日向子(ひなこ)ちゃんと美里(みさと)ちゃんとお弁当を食べていたときだった。 「そしたらさぁ、クリスマスプレゼントと誕生日プレゼント、2個もらえるの?」 「えっ、1個だけだよ」 「ふーん。それって、どっちのプレゼント?」 「さぁ……どっちかなぁ」  予想外の質問に私が戸惑っていると、2人はここぞとばかりに顔を見合わせた。 「あたし、誕生日8月なんだ。1年に2回、プレゼントもらえるんだよ」 「私は10月。誕生日に、ワンピ買ってもらったの。クリスマスには、バッグ買ってもらうんだぁ」 「へぇ……」  幼少期から幾度も繰り返された、不毛な会話。1年366日。世界には70億超の人間がいる。神様の誕生を祝う特別な日だろうと、誕生日が重なることなんて、そりゃあるだろうに。 「1回しかもらえないなんて、損だねぇ」 「ねー、かわいそー」  彼女達は同情を口にしながら、謎の優越感をチラつかせる。私は小首を傾げた。 「でも、みんなが『おめでとう』って言い合って、笑顔になる日だよ。私は嬉しいけどなぁ」  意外な反応だったらしく、もう一度、2人は顔を見合わせた。  それは、私に取っては当たり前のことだった。何度も聞かされてきた言葉だから。 「ねぇ、恵。あなたの誕生日は、世界中のみんなが祝福し合う特別な日なのよ」  初めてこの言葉をもらったのは、5歳の12月だった。私が通う幼稚園では、月の始めに、その月に誕生日を迎える園児達をまとめてお祝いしてくれた。 「きららちゃんがね、『めぐちゃんは、プレゼントがひとつしかもらえないから、かわいそうだね』って言うの。私、かわいそうなの?」  謂われのない同情が理解できなくて、涙目で問いかけた私を、ママは両腕の中に確りと抱き締めてくれた。 「あなたは、パパとサンタさんがくれた世界で1つだけの最高の贈り物なの」  とても幸せそうな満面の笑顔は、私も笑顔に変えてくれた。パパにもサンタさんにも会ったことがないからこそ、ママがくれたその言葉は、自分が世界中から祝われているのだと信じる充分な根拠になった。
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