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「ママ……来てくれたの」  病室に入ってきた姿を見て、少し気が緩んだ。破水して2時間。今は15分間隔で押し寄せてくる痛みに耐えている。この痛みは、私の中で育んできた命を世界に送り出すための準備。扉が開かれている確かな証拠。 「なに言ってるの。当たり前でしょ」  微笑みながら、ママはフェイスタオルで私の額を優しく抑えてくれた。 「雪……強くなってきたのね」  ママの肩越しに見える窓の向こうでは、いつの間にか空の様相が変わり、白い塊が止めどなく落ちている。 「寛翔(ひろと)さんは……朝まで?」 「うん。明日から週休なんだけど……今日は非番だから、仕方ないよ」  私の夫は消防士だ。勤務形態は二部制で、勤務日と非番が交互で、それを数回繰り返すと週休が入る。週休は完全なるお休みだが、非番はあくまでも待機状態。緊急時には非常招集がかかり、出勤しなくてはならない。彼が勤務している南四条署は繁華街の端にあり、今日のように人出が予想される日には、最初から応援出勤することになっている。だから……仕方ない。1番側にいて欲しかったけれど、彼も側にいたかった筈だから。
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