誠の滞在

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誠の滞在

 「勿論今週末は岳に会いに来たんだけど、それだけじゃないんだ。丁度こっちで打ち合わせがあってね。相手がこの街を指名してくれたのはラッキーだったよ。」 そう誠がキッチンに立ってベーコンを焼きながら俺に話した。俺は昨日の誠のやんちゃのせいでソファの上で伸びている。けれど香ばしい香りが食欲を引っ張り出した。俺は立ち上がると、腰を摩りながらダイニングテーブルに座った。 「ごめん、手伝えなくて。」 すると僕の前にテキパキと皿を並べながら、誠は俺の髪にキスした。  「私こそごめん。昨日はちょっと夢中になり過ぎちゃって。どうしても岳に飢えてるからしょうがないんだけど、岳が意識を飛ばしてるのを見て、流石に反省したよ。」 俺は昨日の執拗な追い立てられ方を思い出して、誠からコーヒーカップを二つ受けとると、椅子に座った誠をチラッと見た。 「‥誠ってちょっとサドっ気ある?」 すると誠はまるで好物の蜂蜜を舐めたクマの様に目を光らせて、ニヤリと笑って言い返した。 「私が思うに、岳はちょっとマゾっ気があるみたいだ。」 俺は話が不味い方向へ進んだ気がして慌てて手を合わせると、頂きますと朝食を食べ始めた。クスクス笑う誠を下から見上げながら、俺はさっきの話に戻った。  「その相手って、やっぱりアルファ?こんな小さい街をご指名とはね、変わりもんだね。」 すると誠が相手は凄く忙しいので、協賛の関係上誠が合わせるしかなかったらしかった。 「…誠だって忙しいじゃん。でも今週は誠も一緒に過ごせるってだよな。それはそれで嬉しいけどさ。最近皆忙しくって、俺だけ暇人なんだ。早く受験終わるといいのに。」 すると誠はカップをテーブルに置きながら微笑んだ。 「岳が推薦で決まったのは、勿論変異Ωという条件もあるかもしれないけれど、そもそも日頃の基礎評価が高かったせいだろうね。名京大学に合格するのはそんな簡単じゃないよ。 とは言え、大学に進むと一緒に住めるのは凄く嬉しいけど、アルファの多そうな大学生活は少し心配だ。」 俺は呆れた眼差しを誠に向けると、目玉焼きを潰してトロリと流れる黄身に目を移して呟いた。 「あのさ、三人も番がいる俺を心配する人なんて居ないんじゃない?まったく誠の欲目も天井知らずだよね?」 言葉にすれば誠の心配は随分過保護に思えて、僕はニヤニヤしてしまった。  動きの無い誠に目をやると、誠はじっと俺を見つめて考え込んでいた。 「…本当に自覚ないのが一番問題だ。岳は変異Ωだから、番ったとしても何だか安心出来ないんだ。勿論私たちと番った影響で前の様な心配はないけどね。でも…。」 眉を顰める誠に、俺は思わず湧き上がる喜びでニヤついてしまった。 「誠がそうやって独占欲を出すのって、何かキュンとするな。愛してる、誠。」 こんなセリフがすらすら出てくるんだから番うって恐ろしいよ。内心葛藤を感じながら誠を見つめていると、誠は妙なギラついた眼差しで立ち上がった。 「…ほら、さっさと片付けよう。私は岳が欲しくなってしまった。…応えてくれるだろう?」
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