こんな時に…!※

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こんな時に…!※

 やばい、まじでやばい。俺は熱い息を吐き出しながら、誰も居ないマンションで一人熱い身体を持て余していた。明日まで新も叶斗も受験で東京へ出ずっぱりだ。誠も仕事の都合で明後日にしか戻ってこない。 1週間前から風邪をひいて、受験前のあいつらにうつさないようにと部屋の扉の隙間から見送ったのは昨日の朝だった。それまで数日一緒に居ないようにしていたから、今日は誰も居ない家の中でのんびり過ごしていた。何なら一人で買い出しに出掛けたほどだ。    だから夜になって、ゾワゾワした時にまた風邪がぶり返したのかと思ったんだ。でも直ぐにこの感じは発情期かもしれないと思い当たって、カレンダーをチェックした。けれど変異Ωの哀しさか、発情期の決まったパターンさえまだ無くて、結局俺は一人で発情期のスタートを決めることになった様だった。 俺は念の為に処方されていた抑制剤を飲むと、しっかり腹ごしらえした。発情期がピークに入ってしまうと、食べることより性欲に身体が振り切ってしまうので、誰かが口に運んでくれない限り食べられない。  念入りに風呂で綺麗にすると、俺はやっぱり発情期用に用意されていた大人のオモチャを手にベッドへ転がった。明日受験のあいつらに連絡する気は無かった。誠は海外に出張中で、早くても明後日の帰国だ。 「詰んだな…。」 俺は覚悟を決めたものの、酷く物足りない気持ちでむくりと起き上がると部屋を出た。一応個人の部屋はあるので、俺は各部屋を回りながらあいつらの一番匂いの強いものを選んで回収して回った。  なるほど、オメガは番の匂いを欲するってのはその通りだ。あいつらの匂いがあると、この身体の奥から湧き上がってくる苦しい感じが和らぐ気がする。 俺は下着が汚れたのを感じて顔を顰めると、ベッドに大判のタオルを敷いてドサリと横になった。いつも誰かと一緒に眠っているこのベッドに自分一人だけで転がると酷く薄ら寂しい。  けれどそんな感傷を抱いたのはほんの一時だった。俺は新のパーカーに顔を埋めながら後ろに指を這わした。準備万端で裸になっていた俺は、いつもよりぬるみの強い自分の粘液の感触に顔を顰めた。 欲しい。この疼く穴を満たして欲しい。どうしてこんな時に誰も居ないんだ。しょうがないのは分かっているのに、精神的に不安定なのか泣きたい気持ちになる。  指だけじゃ足りなくて、俺はまるでヤバい人間のように息を荒げながら、そこそこ長めの誰かの持ち物に似たオモチャを手に取った。実際これを使用した事はない。自分では。 誰かとしていた時に、冗談半分に使ったけれど、変に硬くて全然別物だった。でも今は贅沢は言ってられない。俺は横を向いてそっと欲しがる場所へあてがった。恐る恐る挿れると、疼く俺の身体は偽物とはいえ無いよりはましとばかりに呑み込んでいく。 求めるままに動かすと、ビクビクと自分の身体から快楽の印を吐き出した。なんか泣ける…。  抑制剤も効かずに、自分で後ろをぎこちなく慰めながら俺はまんじりともせずに一晩明かした。朝方にようやく疲れ切って眠っていたみたいだった。 発情期のスタートは俺の場合、素面になる時間がある。俺は脈動する身体を持ち上げて、もう一度キッチンで抑制剤を飲んだ。これが少しでも効いてくれればいいけど、せめてあいつらが戻って来るまで…! そんな悲壮感丸出しの俺の願いが届いたのか、意識が飛んだ俺の側で誰かの話し声がした。それと同時にむせかえる俺の好きな匂いが部屋いっぱいに広がった。  「凄っ。岳のフェロモン一気に広がった…。俺夢だったんだよ、岳が俺の服で巣作りするの。愛されてる気がするじゃん?」 「おい、馬鹿な事言ってないでシャワー浴びさせるぞ。いくらなんでもドロドロだ。俺が岳連れてくから、叶斗ベッドメイクよろしく。」 そんな会話を朧げに聞きながら、俺は胸板の厚い裸の身体に抱き上げられて、温かなシャワーを浴びせられた。 「…新、おかえり。俺発情期来ちゃってさ、まいった…。」 安堵したせいで、なんか泣けてきた。俺が新を見つめて唇を震わせていると、何とも言い難い表情で新が俺に口づけて言った。 「確かに叶斗の言うことも分かる…。弱った岳、めちゃくちゃに可愛がりたい。」 俺は首に手を回して新の唇に吸い付いて言った。 「…可愛がって。頑張って待てったんだ、ご褒美くれよ。」  
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