それぞれの道

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それぞれの道

 結局皆で楽しく飲んだり食べたりしているうちに、あんなにあったご馳走はすっかり消えてしまった。流石に男だらけの集まりだ。誠が相変わらず社交性を発揮して、お義母さんを労っていてそつがない。 俺は対面のソファに座って来た、高井のお義父さんに声を掛けた。 「新は東京が本拠地ですけど、高井家としてはそれは大丈夫なんでしょうか。」 するとお義父さんは新に良く似た、少し吊り上がった目を緩めて俺に微笑んだ。 「今のところは問題ないだろうね。本家のあの場所が重要なのは間違いないんだ。だからあの場所ではない土地を本拠地にするのは難しいが、新が時々式神のご機嫌伺いに来てくれたら特に不都合はなさそうだ。それだけ、新には適性があったと言う事だろうね。 将来的には新には公の立場も必要になるかもしれない。それをどんな顔にするかはまだ先のことだからいいとして…。」 俺はお義父さんの言う事に引っ掛かった。一体どんな立場だと言うのか。俺が新の顔を見ると、新が苦笑して言った。 「まったく、まだハッキリ決めてないのにそんなモヤモヤする様な言い方をして。いや、高井家は陰陽道だけど、それを全面に出すのは胡散臭いだろ?だから、大抵別の顔を持っているんだ。高井の伯父は昔は議員をしてたね。俺は政治家はちょっとアレだけど。」  すると誠が身を乗り出して新に言った。 「悪くないと思うよ。実際、お客さんに政治家は多いだろう?伝手はいくらでもありそうじゃ無いか。本家を継ぐまで、政治の方で表の顔を作っておくのも悪い話じゃ無いと思う。もっとも後継者になったら、両立は難しいだろうが。」 俺は首を傾げた。陰陽道ってそんなに忙しいんだろうか。そんな俺の疑問を読まれたのか、高井のお義父さんが俺にレクチャーしてくれた。 「私はサポートと、基本弁護士の仕事をメインにしてるからアレだが、兄さんは忙しそうだ。もっとも客は選んでいるみたいだが、それでも高井の力を必要としている人間は多いんだ。この科学的な時代だからこそ、解決出来ない問題も表面化する。 お金が幾ら掛かっても解決して欲しいと願う人が多いのか、この手の仕事ができる人間少なくなったのか…。」  普段新は自分の仕事についてはほとんど口にしないので、俺は目を見開いてお義父さんの話を聞いていた。新が顔を顰めて、お義父さんに言った。 「あまり岳を怖がらせるなよ。俺だってまだ未熟で、本当のところなんて把握しきれてないんだ。でも、まぁ岳も山伏で、他の人間よりは理解してくれそうだったのが俺にとっては幸いだったけどな。」 そう言って隣りに座った俺の手をぎゅっと握った。俺は丁度うまいこと話が山伏に流れたのに気をよくしてニンマリ笑って言った。  「そうだろ?だから明日は山駆け行くから。もちろん初心者コースでのんびり歩く程度だよ。大丈夫、無理はしないからさ。ほら、桃李にもついて来てもらうしね。」 みんなのブーイングに俺は慌てて桃李を引っ張り出した。俺が親達の反対の声に顔を引き攣らせていると、誠が皆を見回して苦笑して言った。 「皆さんの心配も分かりますけど、まぁ岳にとっては一種の胎教の様なものだと思えば納得してもらえますか?白路山のあの空気は私も側に行っただけですけど、経験の無いものです。私たちも一緒に行きますから。ご心配ありがとうございます。」  「さっきはありがとう。誠が親を説得してくれて助かったよ。」 叶斗の家の離れの、もはや別邸とも言える寝室のベッドに横たわりながら、俺は服を脱いでいく誠を見つめた。誠はシャツのボタンを外しながら、少し顔を顰めて言った。 「正直言えば、俺も心配だ。でも胎教に良い気がするのも本当だからな。岳にとってベストな事だったら万全な状態でやってやりたいんだ。」 俺は相変わらずのスパダリぶりにクスッと笑うと、手を伸ばして甘えた。 「俺も脱がして。」  途端に目をギラリと光らせて、胸元を勢いよく肌けた誠が綺麗なシックスパックを見せつけながらベッドに腰掛けた。それから俺に手を伸ばすと、ゆっくりとTシャツを脱がせた。 首から指先でなぞり下ろして、少し俺の胸の先端を甘やかに丸く描いて呟いた。 「…前より色が濃くなったね。でも刺激するのは止めよう。赤ん坊に良くないだろう?こんなに色っぽいのにね。」 それからへそを通ってお腹の上を手のひらでそっと撫でた。 「信じられないな。この中に赤ん坊が居るなんて。誰に似ているか分からないけど、きっと岳に似て綺麗な赤ん坊だろうね。」  母屋で片付けを手伝っているあの二人にもまだ聞けないことを、思わず尋ねていた。 「ね、誠は自分の子供じゃなかったとしても可愛がってくれる?」 すると、俺の目をじっと見つめて誠は俺に唇を寄せて言った。 「ああ。この子は皆の子供だ。可愛がるよ。ただし、ちょっとした競争意識は感じるけどね。一体誰のオタマジャクシがわれ先にと到達したのかって。ははは。」  俺は頭を手で引き寄せて、誠の唇を押し当てると直ぐにそれは甘い口づけに変わった。一応流産しそうな妊娠初期はずっとお預けだったお陰で、甘い口の中を弄られるだけで心臓がドキドキして盛ってくる。 そんな俺から顔を引き剥がして、誠は赤らんだ顔で俺を睨みつけた。 「まったく。我慢してるのに、そんなに誘惑されたら中々辛いものがあるよ。ああ、岳が欲しくて堪らない。」 そう言って起き上がった誠の股間は、ズボンを押し上げている。ああ、素敵だ。俺はクスッと笑って唇を舌先で舐めて、それをじっと見つめる誠に言った。 「…安定期入ったでしょ。今回は3泊4日だから、一夜に一人づつなら大丈夫だと思う。一応ドクターにも聞いて、激しくしなければ大丈夫だって言ってもらえたから。」
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