二人のアルファは、変異Ωを逃さない！

失態

「まったく、どうして山に入って気を抜いてるんだ…！」

ああ、そんなに怒鳴らないでくれよ。頭にガンガン響くから…。でも言ってる事は正しいから僕は何の反論も許されない。ていうか、ここどこだよ。

眩しさに顔を歪めながらもう一度目を開けると、俺の部屋だった。目の前には桃李がめちゃくちゃ怒ってるし、心配そうな顔して叶斗と高井が俺を見下ろしている。

「…ごめん。気が散った。」

桃李は俺の汚れた上着とズボンを脱がせて、Tシャツ一枚でベッドに寝かせてくれたみたいだ。上着が防水加工だったから、泥は避けられたらしい。

「あの沢の降り口に最近の雨で倒木があって、お前それ避けようとして無茶したんだ。奇跡的に怪我は無かったけど、背中打って気絶した。ここまで…大沢君が背負って来てくれたんだよ。後でちゃんと礼しとけよ。
…大丈夫だと思うけど、念の為に一晩誰か一緒に居てくれた方が良いんだけど。親父さん今日は遅いのか？」

父さんはクライアントの所に行っていて、今日は多分夜遅いだろう。俺が頷くと、桃李はこれから塾のバイトが入ってるから付き添えないと、困った様にスマホを弄っていた。

叶斗が俺たちのやり取りを見て、桃李に言った。

「俺がアルファだから東さんが心配になるのは分かるんですけど、俺が岳のお父さんが帰ってくるまで付き添ってます。ちゃんと抑制剤も飲んでますし、そもそも山駆けに誘って貰ったの俺のせいですから。」

高校とは全然様子の違う叶斗がそこにはいた。いつもの軽くてバカ丸出しじゃなくて、真面目で真摯だった。俺は何だか不思議なものを見た気がして、思わず笑っていた。

桃李はまだ迷っていたみたいだけど、高井も一緒に付きそうと聞いて、俺さえ大丈夫なら任せると言った。俺は桃李にこれ以上迷惑を掛けたくなくて、それにこの二人が俺に無体な事はしない気がして大丈夫だと頷いた。

桃李が部屋を出ていくと、高井が叶斗に夜ご飯をどうするかと相談を始めた。平日は長谷川さんが用意してくれるけれど、今日の様な週末は、父さんと俺で適当に作ったり、食べに行ったりして何とかしていた。

高井が電話を掛け始めると、叶斗が俺のベッドの側に座り込んで、俺の頭をそっと撫でて言った。

「あんまり心配掛けるなよ。俺、マジで岳が死んだと思ったぞ？下の方で地面にぐったりと転がってるんだから。でもお前凄いね。落ちていく時に無意識だろうけど、足と手を使って忍者みたいに落ちてった。山伏ってみんなあんな感じなのか？」

そう揶揄う叶斗の声がちょっと震えているのを感じて、俺は何だか悪いことをしたなと反省したんだ。俺は叶斗の手の優しさを感じながら目を閉じて言った。

「ごめん。心配掛けた。もう大丈夫だから…。」