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エッチなことは好きな人としか出来ない。
もし人間がそういう風に出来ていたら、オレの身体はきっとまだ清いままだ。
清くてキレイで、何ものにも染っていないはずだ。
だけどもちろん人間はそんな風には出来ていない。だからオレの身体はとっくにキレイなんかじゃない。
「あっ・・・ぁあ・・・っ」
クリスマスイブのこの日、何ヶ月も前から予約された高級ホテルのスイートのベッドルームの中は、ギシギシと軋むベッドの音とパンパンという乾いた音の裏で卑猥な水音が響いていた。そして二つの息づかいが重なり、一際高い喘ぎを最後に静まり返った。
どくどくと脈うち、お腹の中が熱いもので満たされる。その久しぶりの感覚に、いま極めたばかりの下肢がじんと疼き、無意識に中を締め付ける。
「このまま・・・またヤル?」
背後から覆い被さるようにオレに凭れていたそいつは笑いを含んだ吐息と共にそんな言葉を耳に流し込むけど、オレはそのおでこを軽く指で弾いた。
「明日早いんだろ?早く抜けよ」
クリスマスイブのこの夜。
きっとこのホテルの中は愛の睦み合いでいっぱいだろう。
夜はまだまだこれからだから、カップルたちはもっと愛を確かめ合う行為に勤しみ、幸せいっぱいの朝を迎えるのだろうけど・・・。
一体そのうちのどれだけが本当に愛し合ってるのか。
まあ、楽しくて気持ちよくて、心が満たされるならそれでいいよね。オレもそうだし。
そう思いながらオレの中から出ていくそいつが抜くと同時に、オレは押さえてくれていたティッシュを代わりに押さえる。
「ごめん。いっぱい出た」
中から出てくるソレをベッドを汚さないようにティッシュで拭くけれど、一回じゃ足りなかった。
「いいよ。最後だし」
そいつが新しく引き出してくれたティッシュを受け取りまだ出てくるソレを拭き取ると、オレはそのままシャワーに向かう。その後を追いかけるように付いてきたそいつと一緒にシャワーを浴びて中を掻き出してもらいながら、結局そこでもう一度した。
「そんなにしてさ、明日大丈夫なの?」
そう言いながら身体を拭いていると、ふと鏡に映った身体が目に入る。するとそこは赤い跡がたくさん付けられていた。しかもところどころに噛み跡も。
「お前・・・こんなに付けやがって。それに噛むなって言ったろっ」
興奮すると噛みたくなるのか、こいつは時々こうして噛み跡を付ける。
「だって他の男として欲しくないし」
確かにキスマークは誤魔化せても、噛み跡は誤魔化せない。こんな跡付けて他の男と寝ようとは思わないけど・・・。
「そういうのは彼女に付けろよ」
いわゆる所有物の証。
「噛むと怒るんだよ。それにあんな柔らかい肌、怖くて噛めないよ」
オレはいいのか?
「それに彼女は浮気しないけど、お前は放っておくとすぐ違う人のところに行っちゃうだろ?」
浮気って・・・お前が言うなよ。
それにオレはそんな尻軽じゃない。
基本一人としか付き合わない。だから今は、こいつがいるから他にはいないけど・・・。
「さて、支度終わったな」
髪も乾かし、オレたちは来た時と同じ格好になる。
「スマホ出せよ」
そう言ってオレも自分のスマホを取り出すと、そいつの連絡先を全て消した。そしてそいつもオレのを消すのを見届ける。
「じゃあ・・・結婚おめでとう。幸せになれよ」
笑顔でそう言うと、オレは部屋を出た。
数年ぶりのクリスマスの日曜日の明日、こいつは1年付き合った彼女と結婚式を挙げる。だからオレたちは、今日でお別れだ。
彼女持ちのやつと付き合うなんて、オレは酷いやつ?
それを言うなら、彼女が出来てもオレと切れなかったそいつがサイテーな男だ。だってオレたちの付き合いは3年だから。
でも恋人じゃなかったんだよな。
セフレよりも強く、恋人ほど深くない関係。
だったらどんな関係なんだと聞かれると、答えるのは難しい。だけどオレもそいつも間違いなく相手のことを大切に思っていた。安らげる存在だったんだ。だから恋人同士のように日を置かず会い、身体を重ねてきた。
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