Merry Christmas

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そう思いながら次の信号で渡り、オレは家に帰った。 そして家に帰って夕食を買ってなかったことを思い出したけど、特に食欲もないからそのままにした。でもふともらったあめのことを思い出し、オレは上着のポケットからそれを取り出した。 最近では珍しい両側を捻ったその包みを、両側に引っ張って開ける。すると中から真っ赤なあめが出てきた。 いちご味かな? そう思いながらそれを口に放り込み、口の中で転がす。 やっぱりいちご味だ。 昔懐かしいちご味。 そう言えば昔あいつと食べたっけ。 人はイライラするとろくなことをしないし考えない。 そう言っていつも、あいつはあめが入った小さな缶を持ち歩いていた。 あめの中でもいちご味が好きなのか、その缶には色々な種類のいちご味のあめが入っていた。 イライラした時に食べるんだ。 そう言っていたけど、あいつはいつも口にあめを入れていた。 ただあめが好きだっただけじゃん。 いつも甘いいちごの香りがしていたあいつ。自分だけ食べたら悪いと思ったのか、あいつはオレにもあめをくれたっけ。 僕のイチオシ。 そう言っていつも同じあめをくれた。 このあめは、あの時の味に似ている。 なんだか郷愁を覚え、しんみりしてくる。 恋人未満だとしても、3年も付き合った相手と別れたことと、やっぱり3年暮らしたこの部屋との別れに、大丈夫だと思っていてもそれなりに寂しさがあるようで・・・。 おまけに昔のことも思い出してしまった。 一人きりのクリスマスイブの夜と言うだけでは無いなんとも言えない寂しい夜に、オレは少し早いけど寝てしまうことにした。 久しぶりにいちご味のあめを食べて昔のあいつを思い出したせいか、その夜はいつも見ない夢を見た。 中学で一緒になったあいつを好きだと実感したのは、中2の時だった。 それまでなんとなく人とは違うような気がしていたオレが、同性を好きだと気づいた瞬間だった。 何があったわけじゃない。 いつものように一緒にいて、いつものようにじゃれあって。そして無意識に思ったんだ。ずっとこのまま一緒にいたいって。 友情と愛情の違いなんて分からない。 でもその時漠然と思ったんだ。 オレはこいつが好きなんだ、て。 だけどそれは知られてはいけない思い。 当然伝えることなんて出来ない。 だってそれは普通じゃないことだから。 男は当然女を好きになって、そして結ばれるんだ。男が男を好きになるなんて異常なこと。そんなこと知られたら、あいつはきっとオレを奇異の目で見て、離れて行ってしまう。 だったら今のままでいい。 このまま友達として、あいつのそばにいたい。 そう思って、気持ちを閉じ込めた。 閉じ込めて、オレはあいつのそばにいた。 同じ高校に行って親友として隣にいた。 その間に他の人を好きになれればよかった。 好きになれると思った。 だけどオレの心はいつまでもあいつに染まり、そして褪せなかった。 そんなオレの気持ちを知らないあいつは、オレの隣で笑いながら他の女子と付き合った。 それでもオレは、痛む心を隠して隣に居続けた。 そして限界が来た。 嬉しそうに彼女と同じ地元の大学に行くと言うあいつの隣で笑いながら、限界を超えたオレの心が悲鳴を上げた。そしてオレは、地元の大学に行くといいながら、東京の大学に進学した。 内緒で受けた東京の大学。 地元の大学にも受かっていたオレは、当然そのまま地元に残ると思われていた。実際、同じ大学に受かったやつとも入学の話をしていたから。でもオレは誰にも内緒で地元を離れた。もうオレは、あいつの隣で平気な顔をしていられなかったから。 そしてオレは、地元を切った。 上京して、田舎者が都会に染まるのは時間の問題だった。それまでの寂しさを埋めるように相手を求め、身体を重ねていった。 誰でもよかった。 この苦しみを忘れさせてくれるなら。 その中で出会った一人が、オレに安らぎをくれた。 『恋人にならなくてもいい。だけど、他の人としてはダメだよ』 優しいその人は、自分のエゴでそう言ったのでは無い。オレのために言ってくれたのだ。
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