Merry Christmas

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だけどそいつは他で恋人を作り、その人にプロポーズした。 本当は、そいつが何度もオレに告白しそうな瞬間はあった。だけどそれを、オレがさせなかった。オレたちの関係が始まる時、それが条件だったから。だからその言葉をそいつが口にした瞬間、オレたちの関係が終わるのだ。だからオレはそれを言わせず、そいつもその言葉を飲み込んだ。 だからそいつは、他の人に目を向けた。 正直、恋人が出来た時別れようと思った。 今までがそうだったから。 好きにならないのが条件で付き合ってきた男たち。 もちろん性格の不一致で別れたやつもいたけれど、大半は相手に恋人が出来るまで付き合っていた。 こうやってオレは恋人未満の関係を続けながら、相手に恋人が出来ると別れてきた。 目の前でお互いの連絡先を消し合い、そして別れる。 そして万が一相手がオレに未練を持ってしまうと困るので、オレは引越しをする。 まるで儀式のように、オレは付き合いを終えると引越しを繰り返してきた。 今回も、明日引越しをする。 別れる度に引越してたら経済的に大変だろうけど、ありがたいことになぜかオレの付き合いは長い。 こんな関係なのに、みんなオレを大切にしてくれる。 中にはひと月も持たなかった人もいるけれど、そんな相手は数える程だ。それにそういう相手は、引越しをするほど深い関係にもならなかった。でもその他の人は、年単位でオレと付き合ってくれる。 初めからオレ以外の人と付き合っていいと言っても、大抵はオレだけを大切にしてくれる。だけどしばらくすると恋人を作って、オレ達は円満に別れるのだ。 今回だって、本当はそいつに恋人が出来た1年前に別れるはずだった。だけどそれを拒まれ、結婚式の前日まで付き合ってしまった。 相手の人には悪いけど、オレなんてどうでも良くなるくらいそいつを惚れさせなかった相手も悪い。 なんて、クズな発言だ。 でもちゃんと結婚するんだから許して欲しい。 好きな相手と結ばれて結婚なんて、オレには永遠に不可能な事だから。 男同士で結婚も無理だけど、オレの場合は好きな相手と結ばれることも無理な話だ。 夜のイルミネーションが光る道で、ふと空を見上げる。空は雲もなく晴れているけど、街が明るすぎて星はあまり見えない。 その明るい夜空に、故郷の満点の星空を思い出す。 あいつはどうしてるかな? クリスマスイブの土曜の夜。 雰囲気満点の街は恋人同士でいっぱいだ。 そこを一人寂しく歩きながら、オレは家路につく。 引越しの準備を済ませた家の中は、ダンボールが積まれていて落ち着かない。それでもオレにはそこしか帰るところがない。 そう言えば、一人で過ごすクリスマスは久しぶりだな。 今までは付き合ってる相手と過ごしていた。 さっき別れたそいつも、昨年のクリスマスを過ぎた年末に彼女と出会ったから、クリスマスはそいつと過ごしたんだ。 確か会社の忘年会で知り合ったって言ってたな。 どこに男女の出会いがあるかなんて分からないものだ。 そんなことを考えながら駅に向かう信号を待っていると、隣に立ったサンタ姿の男の人に声を掛けられた。 「メリークリスマス」 クリスマステンションなのかにこやかにそう言われ、オレも笑って『メリークリスマス』と答えた。 世間はクリスマス。みんな浮かれているのに、そこに水を差すほどオレは野暮じゃない。 にこにこと笑うそのサンタは、オレにあめ玉を一つ差し出した。 「願い事をしながら舐めてごらん」 一瞬受け取ることに躊躇したオレの手を取ってあめを握らせると、青になった信号を渡って行ってしまった。 唖然としてあめを握る手を見ている間に、そのサンタは姿を消し、そしてオレは信号を渡り損ねた。 だけど、オレはそれをポケットにしまった。 このご時世、どこの誰かも分からないサンタ姿の男にもらったあめなど、どんなものか分からない。だけどなんだか捨てる気にはなれなかった。 きっと会社の余興か、家で待つ子供のためにサンタの格好をしていたのだろう。そんな人が悪い人なわけが無い。
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