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FriYAY ② 長谷川
悠は自宅の一室を事務所として使用している。外に事務所を作るのを乙幡が嫌がり、ものすごく反対した結果、今の形に落ち着いた。
リアムは悠のデザイン事務所で働いているため、毎日悠の所に通っていた。
一カ月前、リアムのアパートが水漏れ被害に遭った。上の階の部屋で水道トラブルがあったらしい。帰宅したらリアムの部屋が水浸しだったという。
すぐに修理をして欲しい、このままでは住めないと何度も伝えたが、ここはアメリカ、対応なんてすぐにはしない。放置されたままだ。
そのため、困っているリアムを何とかしようと悠が四方八方に手配をしている中、乙幡がその話を聞きつけて『お前の家にリアムをおいてやれ。騎士同士だろ?』と長谷川に言い、承諾する前に、乙幡が全て手配を終えてしまった。それからリアムは長谷川と共に生活をしている。
リアムは本当に運のいい奴だと思う。
「絢士さん、いつもありがとうございます。それから…さっきはすいませんでした。乙幡さんの前で名前で呼んでしまって…」
自宅に帰る車の中で、リアムが長谷川に向き合い謝ってきた。
長谷川はリアムに下の名前で呼ばれている。改めて自己紹介をした時に、長谷川絢士という名前を漢字で書いてあげたら『武士ですよね?武士なんですか?』と興奮気味で聞いてきたことがあった。
武士の士という漢字を名前に使っているだけで、武士では無いと何度も伝えたが、絢士という漢字は武士の一族なはずだとリアムは譲らず、その時から長谷川を下の名前で呼んでいた。リアムは自分でも言っていたが、戦国オタクらしい。
めんどくさいから何でもいいよと、長谷川はその時は言っていたが、乙幡の前では下の名前で呼ばないようにとだけ、念の為に釘を刺しておいた。乙幡にイジられたら、しつこくてめんどくさいに決まっているからだ。
だが相手はリアム、変な小細工は通用しなかったなと、長谷川は考えながら運転をしていた。
「ああ、いいよ、もう。時間の問題だっただろ、知られるのは。リアムにダメだと言っても挙動不審になったりしちゃうもんな。だから気にするな」
リアムは素直で嘘がつけないから、ダメな理由がわからないと上手く対応が出来ない。めんどくさいからという理由だけでは、リアムは困ってしまう。
「だけど絢士さんは嫌だったでしょ?ファーストネームで呼ばれたくないんですよね…」
「めんどくさいだけだよ。乙幡さんが揶揄うからさ。ほら、そんな顔をさせるつもりはないから、もういいって。それより何か買って帰るか?今週の休みは何をする予定だ?」
週末は二人とも休みになる。ここのところ、家の中で食事をしたり映画を見たりなど、二人で過ごす時間が多くなっていた。確か、冷蔵庫の中身も寂しくなってきていたはずだ。
「絢士さんが嫌じゃなければ、YOROIの続きを一緒に見たいんですけど。どうでしょうか…」
「YOROIか…」
長谷川が見ても特に面白いものではない。戦国武将の鎧を紹介するネット番組だ。海外向けに作られてる番組なので、司会者が外人であり、本当かよ?って思うほど大袈裟である。
「あ、あ、あの、やっぱり部屋でひとりで見ます。絢士さんは好きなことしていてください」
長谷川の態度を何となく察して、リアムが一緒に見ることを辞退するような言い方をしてきた。こんな感じに挙動不審な言い方をする時、リアムはアクシデントを引き寄せることを長谷川は知っている。なので、ひとりにさせておくのは心配になってくる。
リアムは運が最高に良いと感じる一方、自らアクシデントを引き寄せてしまうとも感じている。両極端だ。
「お前さ、そんな感じになるといつも何かを引き起こすだろ?慌てるっていうか…この前だってビタミンのサプリをばら撒いてただろ?それを俺は踏んで、痛い思いをしてたらついでに足の小指をテーブルにぶつけたんだっけ。でもまあ、なんだかその後、偶然にもサプリ会社の仕事がひとつ決まったんだろ?」
「すいません…気をつけます」
急にシュンとしてしまったリアムを横目で見てたら笑ってしまった。仔犬が震えてるって感じだ。
「わざとやってるわけではないんだから、謝らなくていい」
不思議とリアムだと許してしまう。それと、リアムの前では笑ってることが多い。
車をゆっくりとスーパーマーケットの駐車場に入れた。週末、部屋で過ごす為の買い物をしようと長谷川は考えている。
アメリカは何でも量が多いから、一人分だと、途中で飽きてしまったり、余らせて残したりしてしまう。だが、リアムと一緒だと、二人分となるから余らせる事なくあれこれと買えて便利だと長谷川は思っていた。
スーパーマーケットの中に入り、食料を選んでいたらシリアルのコーナーで目を引くものがあった。
「リアム、これ見ろよ。YOROIとのコラボ商品だ。YOROIのフィギュアがひとつ箱の中に入ってるみたいだぞ。買うか?」
「えっ!あっ、本当!凄い、シリーズ化してますね。うわ、パッケージもカッコいい」
いつも食べているシリアルが限定商品として、YOROIのフィギュアがひとつパッケージの中に入っているという。ランダムなので、どの戦国武将の鎧かはわからない。
「YOROIって人気だったんだな。こんなコラボ商品になってるくらいだもんな。なんであれが人気なのか…しかし、知らなかった」
「うう…人気ですよ。カッコいいじゃないですか!時代によって鎧のデザインも違うんですよ。一緒に見てたじゃないですか」
「わかったわかった。じゃあ、ひとつ選べよ。お前の好きな戦国武将が出るかわかんないけど…それで、今週もYOROIの続き一緒に見ようぜ。俺は酒が必要だから酒も買ってくるから」
◇ ◇
家に帰りリビングで食事を取りながら、ネット動画をスクリーンに映し出した。
「YOROIの後は、映画見ようぜ」
「そうですね!何にしましょうか…たまには恋愛ものとかにします?あ、スポーツものでもいいですけど」
「ホラーだな」
「絢士さんホラー好きなの?ここ最近ずっとホラーですよ?」
「いや、お前が冷静に分析してるのを聞いてるのが好きなんだよ。お前がホラーを見て全然怖がらないで、これは詰めが甘いとか辻褄が合わないとか言ってるのが面白いんだよ。ホラーだと見ていてすげぇ言うだろ?」
「…はい。ストーリーの前後関係とか正しくないと気になっちゃうんです」
リアムの言葉を聞き、はははと声を上げて長谷川は笑った。
「俺、お前のそういうとこ本当に好ましいよ。さ、見ようぜ。最初はYOROIな」
ちょっと待っててくださいと言い、リアムはキッチンに行った。恐らくさっき買ったシリアルの中身が気になってしょうがないのだろう。YOROIのフィギュアは、何が入っているのか確認しているはずだ。
リアムの好きな戦国武将は直江兼続だ。愛という漢字を兜に乗せているのがカッコいいといつも言っている。「LOVEなんてカッコいい」と言うリアムの言葉が長谷川のツボに刺さり、聞く度にいつも爆笑していた。
「絢士さん…見て!」
涙目でキッチンからリアムが出てきた。案の定、シリアルを開けYOROIのフィギュアを確認したようだ。手にはそのフィギュアを持っている。
「リアム、お前本当に運がいいよな」
週末の夜が始まる。
end
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