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Happy holidays to you too! ③
久しぶりだ。全然変わっていない。
コンビニの前で突っ立って、辺りを見回してしまった。
体が覚えているのか、するするといつものビールをかごに入れていく。そうだ、キャベツも買っていこうと、思い出しキャベツもかごに入れてキャッシャーに行く。
「来たぞ」
玄関のインターフォンを乙幡が押すと、中から女性の声で「はーい」と返事があり、玄関のドアが開くとショートカットの女性が現れた。
「杏ちゃん?」
「そうです!初めまして」
すらっとした長身の美人だ。和真の恋人である杏だとわかった。
「電話ではいつも話してたから、初めましてな感じがしないよな。乙幡です。色々、ありがとうね。あっ、これサンフランシスコからのお土産ね。和真いる?」
お土産を渡しながらズカズカと玄関から入りキッチンに行くと、和真が何か作っているのがわかった。
「おっ!和真、久しぶり。何作ってんの?」
と、声をかけながら、いつものようにビールを手渡す。
「…焼きそば」
ぶっきらぼうに和真は答えている。
「乙幡さん、はい、これ。先に渡しておきますね」
「おお!やった!うーちゃんだ。ありがとう、杏ちゃん。エコバッグもゲットしてくれたんだな」
うーちゃんの皿とエコバッグを無事に手にすることが出来、乙幡は満足していた。
「へぇー、二人で今は住んでるの?杏ちゃん、和真と上手くやれてる?問題ない?」
キッチンには入らず、杏とテーブルに座り乙幡は話し込んでいた。
「問題ないですよ。毎日楽しく生活してます。和くんは仕事もアドバイスしてくれますし…頼ってばっかりです」
コロコロと笑い明るく可愛らしい女性だ。和真とも上手くいっている様子がわかる。
「うんうん。和くんね、そっか、仲良くてよかったよ」
「和くん、乙幡さんが来るって言って、今朝は早くから色々と準備してましたよ。いつも乙幡さんと悠さんの話を聞いてます」
和真に聞こえないように小声で、杏は乙幡に言っている。
「…杏、変なこと言うなよ?」
和真が焼きそばを持ってテーブルに来た。
三人分作ってくれた焼きそばは、物凄くいい匂いがしている。ソースの匂いだろうか。
「和くん、杏ちゃんは変なことなんか言ってないぞ?な?杏ちゃん、な?」
「もう…いいから食えよ。焼きそばだよ」
照れ隠しなのか、更にぶっきらぼうに乙幡に向かって和真は言っていた。隣で杏は楽しそうに笑っていた。
和真が作った焼きそばは美味しかった。キャベツも大きいのがゴロゴロと入っている。
「うまい!和真、焼きそばうまいよ。キャベツってこんな感じなんだな。紙のキャベツじゃないし」
「あっそう…」
「なんだよお前、褒められて照れてんのか?」
素直に褒めてやってるのに、冷めたように答える和真に、乙幡はニヤニヤと笑いちょっかいをかけている。
「あっ、そうだ。俺もキャベツ買ってきたからアレ使ってくれよ」
「また?コンビニで買ってきたんでしょ?だから、コンビニのキャベツは千切りなんだって…まぁ、いいか。そうだろうと思ってたし。じゃあ、アレ作ってやるよ」
そう言って和真はまたキッチンに入っていった。追加で作ってくれるらしい。
「ふふ…和くん、昨日は張り切って買い物行ってたんですよ。乙幡さんに食べさせるって言って。後、渡す物があるとかで、色々と買ってました」
杏が笑いながら教えてくれる。
「そっか、ありがとう。じゃあ俺、ちょっとキッチンで様子見てくるね」
ビールを飲みながらキッチンに入ると、和真はお好み焼きを作っているようだった。
「おっ!お好み焼きか?すっげぇ久しぶり!」
和真の手元を覗き込みながら、乙幡が言うも和真は無視をしている。そんな和真の横顔をチラ見すると少し嬉しそうだった。
「お前、最近どうなんだよ」
ビールを飲みながら、久しぶりに和真の尻を足で小突いてやる。キッチンではいつもこんな感じだったなと思い出す。
「なんだよ、もう!最近…?まぁ、変わらないよ。ちょっとずつ仕事は増えてきたかなって感じだな。杏みたいな若手を他にも何人か抱えてるし、みんなで色んな仕事を回してるよ」
ちょっとずつと和真は言っているが、結構忙しくしているのを知っている。12月は特に忙しく、何とか今日時間を作ってくれているんだろうと、想像がついた。
「悠もさ、気にしてたぞ?和くん忙しいかなって。たまには連絡してやれよ?俺ばっかりに連絡するんじゃなくてさ」
「乙幡さんが連絡してくるんだろ!皿とバッグのことで今回は何回電話をかけてきたんだよ。時差ってあるんだからな!」
「あー、はいはい。時差ね。つい忘れちゃうんだよ時差があるって。でもお前、居留守使ったよな?あれだろ?杏ちゃんが居たから出れなかったんだろ?」
ニヤニヤと笑いながら、和真の肩に手を回して、小声で言ってやった。ビールは2本目に突入している。
その後も、二人の出会いから何からしつこく聞くが、和真は恥ずかしがり不貞腐れてしまうが、乙幡はそれを許さずにお好み焼きを作る間中、事細かく聞いていた。
追加で作ってくれたお好み焼きをまた、3人で食べた。和真のお好み焼きは美味しい。
「悠、こっちで仕事してるの?」
和真が乙幡に聞いてきた。杏は隣でニコニコとしている。
「今日は仕事してる。後、明日の12月31日にイベントがあるらしくって、その日の午前中も仕事だって言ってた。だから今回は悠の仕事に合わせてバケーションなんだ。年明けちょっとしたら帰国するけど、その間、悠と会える時間あるのかよ」
「あー…ちょっとタイミングが合わないかな。俺ら、明日から東京にいないし。帰ってくるのは結構後になりそうなんだ」
「えっ?俺らって二人でどっか行くの?年末なのに。あっ、バケーション?」
明日から長く出かけると言う。二人で旅行なのか、海外なんだろうかと乙幡は考えていた。
「あの…乙幡さん、私の実家に和くんと一緒に行くんです」
杏が少し小さな声で乙幡に伝えた。杏の実家は沖縄だという。沖縄には行ったことがない。一度行ってみたいと思っていた場所だ。そういえば、部屋にはスーツケースが置いてあった。明日からの出かける準備をしていたのだろう。
「へぇ…杏ちゃんの実家か。沖縄いいなぁ。俺さ、行ってみたいんだよ…ね…って!おい!和真!まさかお前!」
ペラペラと喋っている途中にわかった。何となく二人が緊張していることも伝わってくる。
明日から沖縄に行くのは、バケーションでも実家に単純に帰るだけではなく、恐らく、杏の両親に結婚の意思を伝えに行くのだ。
和真は黙って何も喋らず、杏は隣でニコニコとしている。
「おい!結婚の挨拶か?だろ?」
「…うん。そう」
「そう…って、シャキッとしろよ!」
乙幡が大きな声で和真に言うと、杏はケラケラと隣で嬉しそうに笑っている。
「私の両親も結婚の報告だってわかってるんです。反対はされないから大丈夫です。楽しみに待ってるって言ってくれてるから」
杏の両親と、いい関係を築いているようで安心するが一大イベントである。和真には、大きな声ではっきりと結婚の意思を伝えて、杏のご両親を安心させて欲しいところだ。
プロポーズはどうなんだと聞くと、きちんとしてくれたと杏は言っている。案外、乙幡が感じているより、しっかりと和真はしていたようだ。
「杏ちゃん、おめでとう。幸せならよかったよ。よし…わかった!和真、俺を杏ちゃんのご両親だと思って練習しろ。ほら、やってみろ。大きな声ではっきりとだ」
乙幡が言うと、「えー…」っと和真は嫌な顔をしている。だが失敗したくないだろ、リハーサルは大切だと、くどくどと伝える。
和真に何度も挨拶の練習をさせた。「杏さんを幸せにします」と繰り返し言わせては、「いいや、ダメだ」と乙幡はダメ出しをして、杏を笑わせる。
大きい声で、ボソボソ喋らない、爽やかに、相手の目を見る、などと言い、あまりにもしつこく何度もやっているので、杏がゲラゲラと笑い出し、和真はプクッと不貞腐れている。和真の膨れっ面も久しぶりに見た。
「悠さんにご挨拶したかったのですが…タイミングが合わなくて申し訳ないです」
杏が恐縮気味に乙幡に伝えてきた。杏は、若いのに、しっかりしている人だという印象だ。和真の軌道修正もしてくれそうである。
「沖縄着いて、無事にご挨拶した後にオンラインで報告しろよ。俺たちは東京にいるから。あっ、それとも俺たちも沖縄に行く?その方がいい?エアの手配しようかな」
「いや!いい!やめて、マジで。連絡するからさ、沖縄に来るのはやめてくれよ。ちゃんと悠にも俺から報告するし…杏のご両親に認めてもらったら連絡するから」
すぐにでも沖縄行きのエアを抑えるところだが、和真が真剣に言うので今回は折れてやった。悠には自分から報告したいと和真は言うので、オンラインで悠に報告する迄は、俺からも言わないでおくと、和真に約束した。
乙幡が帰る準備をし玄関まで行くと、和真が紙袋に色々詰めたものを持ってきた。
「うどんスープの元と…後は、お好み焼きの粉だよ。それと、このラーメンは悠が好きなやつ。あっ、あとカレールーとシチューのルーもあるから…」
「へぇ…全部、俺が欲しいって言ってたやつだろ?揃えてくれたのか」
和真は、なんだかんだ言っても、乙幡が欲しいと言っていたものを忘れないでいてくれた。今日乙幡が来るからと、揃えていたことがわかる。
「だって、うるせぇだろ?何でもすぐに電話してくるし。これだけあれば、電話もかけてこないだろうなって」
「すぐに必要な時に、家の中で見つからないから電話してんだよ。そうじゃなかったら俺だってメールとかで連絡するって。でも、まぁ、これからは新婚だし?あんまり邪魔しちゃ悪いなぁって、思うよ?電話して出なかったら、あれあれ?って思うけどな。そしたらまた電話しちゃうかもな」
玄関でニヤニヤと笑いながら和真に言う。
「本当に嫌なアニキだよな…」
ため息混じりで杏に伝えるように、和真が言った。乙幡のことをアニキと呼び、照れ隠しで嫌な顔をしてみせている。
「和くん…俺は嬉しいよ。ありがとう」
乙幡がそう言うと「うぜぇよ」と返されてしまった。二人がふざけているのを、杏は笑いながら楽しそうに見ていた。
今日もまた写真を撮り忘れてしまった。
帰り道に悠に『好き』というスタンプを送っておく。
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