New Year's Eve ②

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New Year's Eve ②

「おいおい…あいつヨーロッパ行ってなかったのかよ」 小声で言う乙幡の顔はニヤニヤとしている。 コスプレ写真の順番が来たようで、リアムが赤の女王の水城に手を振り、携帯で撮影をしている。水城はまたびっくりした顔をし、視線を乙幡の方に促した。 その水城の顔を見て、長谷川がゆっくり振り返る。その時の長谷川の顔を、乙幡は逃さないようにと携帯を構え連写していた。 「あっ!悠さん!えーっ!あれ?ここのイベントでした?」 リアムが悠に気がつき、興奮して歩み寄ってくる。悠も偶然にリアムに会えて嬉しそうな声を上げていた。 「そうだよ、あっちにブースあってさ、もう瀬戸さんチームが作って出来上がってる。リアム君こそ、ここのイベントなの?関西の方に行くと思ってた」 「関西は限定品が出なくて、こっちは出るからってこっちに来たんです。だから、今回はここだけなんです」 「あーっ!そうか、そうだったよね」 悠とリアムは二人でいるといつもこんな調子だ。主導権はどちらともなく話をしているようだが、二人共それぞれ行動などは把握するくらい情報は伝え合っている。それに、キャッキャとしていて、いつも楽しそうだと感じている。 「なに…お前…その荷物の量…」 長谷川の肩からは何個も紙袋がぶら下がっていた。相当の量、買い物をしたのがわかる。乙幡のニヤニヤとした顔は元に戻らない。 「絢士さんの荷物は全部、僕のなんです。絢士さんは持ってくれていて…」 リアムが必死に言い訳をしているが、長谷川は開き直ったのか、淡々と答えている。 「今回は日本限定品が多かったですからね、荷物も多くなるんですよ。でも、まぁ、全部買えましたけど。な、リアム」 「はい、本当にありがとうございます」 リアムが嬉しそうに言うのを見て、長谷川は笑いかけていた。 「…うわ。お前でも笑いかけることあるんだな。すげぇ…」 「エド!何でそんなことばっかり言うの!長谷川さんでも笑うことあるよ?人なんだから!」 「また、悠…」 悠が長谷川をフォローをしようとすると必死過ぎて、いつも失礼なことを言ってしまう。それがたまらなく面白い。 「とりあえずだな、ランチでもみんなで一緒に食べるか」 乙幡の声に、長谷川は一瞬ガッカリしていたようだが、気を取り直してタクシーの手配をし、乙幡と悠が宿泊しているホテルの部屋まで全員で移動することにした。 ◇ ◇ 少し遅いランチだが、ホテルにお願いしてスイートの部屋に四人分運んでもらうことにした。 部屋であればゆっくりと食事も出来、話も出来る。外は大晦日だし、街も忙しなかった。 「で?お前、ヨーロッパじゃねぇのかよ。日本に来るんなら、なんで俺に言わないわけ?俺が日本にいるの知ってたろ?」 長谷川からは年末にヨーロッパに行くと聞いていた。日本に来るならなんで連絡しないんだ。 悠と二人きりでいるし、別に長谷川にわざわざ会う理由はないが、知らないのは何となく気に入らない。 「違うんです…また僕が迷惑かけちゃって…」 リアムの話によると、またリアムの『運』により左右されたそうだ。そうか、なら仕方がない。いや、ひと言でも俺に伝えるべきではないか?上司なんだからと、ぐちぐちと言ってやった。 「ほら、だから言わなかったんですよ。めんどくさいから。何かあれば連絡は取れるし。とにかく、休暇中なんですから、いいじゃないですか」 と、涼しい顔で長谷川は言いコーヒーを飲んでいる。 「ふーん。じゃあ、次は何買ったか教えろよ。あのイベントはすごいぞ?日本中の人が来ているみたいだからな。来れば何か欲しくなるのかな」 「リアム君!僕も見たい。あれゲット出来た?YOROIでしょ?」 悠も興奮してリアムに問いかけていた。 YOROIとは何のことだろうか。 「乙幡さん、みんなそれぞれ目当てがあってあのイベントに行くです。たまたまリアムの目当てのジャンルが大晦日の今日だったけど、それ以外も色んなジャンルがあるんですよ。昨日もありましたからね。とにかく行って何か買うんじゃなくて、事前に購入する計画を入念に立てて、自分の目当てを買いに行くイベントなんですよ」 そんなことも知らないのか?と言いたそうな顔をして、長谷川に鼻で笑われた。 悔しい。何かわかんないが悔しい。 知らないで浮かれていると言われているようで悔しい。が、実際そうだから仕方がない。 隣では悠とリアムが買ってきた物を広げている。YOROIグッズだという戦国武将の鎧の缶バッチやらTシャツ、タオルが出てきた。 おいおい…すげぇなと言いかけて口を噤む。あまり言うと悠に怒られそうだったからだ。ニヤニヤと笑うのも控える。 「すっごーい!買えたね、よかったねリアム君。お目当て全部ゲットしたんじゃない?カッコいい!この鎧のタオル!」 「そうなんです。それとこれ!見てください!フィギュアがどうしても欲しくて…絢士さんが並んで買ってくれました。ね、絢士さん」 いるか…?それ…と言いかけてまた口を噤む。こいつの家の中は、こんなのばっかりなのかよと思うほど、兜、兜、武士、武士だ。乙幡にはどれもこれも同じにみえるが、全部違うらしい。 でもまぁ、欲しいものなんて個人の自由だ。リアムにはものすごく大切なものだ。ただ、長谷川が必死に並んでる姿を思い浮かべると、可笑しさが込み上げてきてしまう。会社ではいつもクールぶってる奴が、兜を抱えていると思うと可笑しくてたまらない。 「ああ、直江兼続な。一緒に並んでた外人は伊達政宗が目当てだって言ってたぞ。結局、そいつも俺もお目当てを買えたけどな」 しれっと長谷川は言うが、あの人混みの中並んで買ったというのはかなり大変だったと思う。 そう考えながら『愛』と書いてある兜をかぶっているフィギュアを乙幡は眺めた。じわじわと可笑しさが込み上げてきて、笑い出しそうなのを我慢するのが大変になってきている。 ふと目の前を見ると、長谷川が物凄く嫌な顔をして乙幡を見ていた。笑いを堪えているのがわかったのだろう。 「黒騎士とか、戦国武将とか、お前って忙しいんだな…」 乙幡の言葉に長谷川は舌打ちをしていた。素直に思ったんだから、舌打ちすんなよと言ってやった。 「あれ?悠さん、うーちゃんのバックですか?」 リアムが指さしている先を見ると、和真と杏が頑張ってくれた『うーちゃんエコバッグ』が見えていた。 「そうそう。これさ、エドが頑張って和くんに伝えてくれたみたいで、昨日もらって帰ってきたの。サプライズで貰ったから驚いちゃった。本当に嬉しくって…」 昨日、悠に渡した時、ものすごく喜んでけれた。サンフランシスコにいる時から、和真に伝えていたことを話すと、喜んでキスもしてくれたんだと胸を張る。 「悠さん好きですもんね、うーちゃん。あっ、そうだ。うーちゃんもイベントにでてましたよね…えっと、あ!パン祭りで出てるんだっけ」 「はぁ?リアム!なんだそれは?イベント?うちのうーちゃんにイベントなんかあるのかよ!」 初めて聞く話に乙幡は愕然とした。うちのうーちゃんのことを知らなかった自分に腹が立つ。 リアム曰く、パン祭りは25周年のため、今回は特別にうーちゃんグッズを乙幡も行っていた会場で販売していたという。うーちゃんのタオルや、レターセット、ぬいぐるみもあったとSNSでリアムは調べてくれた。 「…ああ、ありますよ。ほら、乙幡さん、ここ見てください。ここで出展してたんですよ」 長谷川からパンフレットを見せられる。そういえば同じものを今日会場に入る時に購入した。それを購入しないと入場出来なかったからだ。 このパンフレットのような本は、どのように読んで、どのように使うかわからなかったから、乙幡は途中で捨ててきていた。 どうやらそれは、地図のような物で、出展してる会社や個人の販売場所が記されている。会場にいた人たちはこのパンフレットを元に、どこで何が販売されるのかわかるという。こんなに多くの人が出展していたのかと、改めて驚く。 更に長谷川の説明を受けてわかった。悠がデザインを手がけた会社と同じように、パン祭りの会社も同じ場所に出展していたようだ。そこで特別なグッズを販売していた。 しかも、それが開催されたのは今日だ。同じ場所、同じ時間に乙幡はそこにいたのに、うーちゃんを見逃してしまった。今世紀最大のミスだ。 「んあーー!マジかよ!今からは買えないのか?戻っても無理か?」 「今日はもう終了してます。いや、残念ですけど購入出来ませんね。同じ所にいたくせに、買えなかったのは残念ですけど。こういうイベントはネット通販とか無いし、金はあっても並ばないと買えないし、事前に調べて計画を立てないとダメなんですよ。今回は完全なる乙幡さんの情報収集不足です。次回、頑張ってください」 いつもの仕返しのように長谷川にニヤニヤと笑われ言われてしまう。さっきまでは人一倍笑いながら長谷川を見ていたのに、立場逆転されてしまった。 「黒騎士よ…いや武士よ…教えてくれてありがとう」 と、最後の足掻きで言ってやったが、「頑張って下さい。先にサンフランシスコに帰ってますね」と、余裕で握手をされた。悔しい。 長谷川とリアムは、明日サンフランシスコに帰ると言っていた。サンフランシスコでYOROIの生配信があるという。 あんな人混みでも迷うことなく目当てのものを買ってこれたなんて、長谷川を本物の武士だと乙幡は思い始めていた。
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