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肩を落として俯き加減でアパートの階段を上っていると、俺の視界に淡いピンク色が入ってきた。
――まさか……
顔を上げると、まさかの彼女が目を丸くして立っていた。
「え?」
次の言葉を探した。一瞬なにが起きたのかわからなかった。俺も恐らく彼女と同じ顔をしていただろう。
「あの……朝、時々すれ違う……」
彼女が口を開いた。想像とは違ったちょっとハスキーな、それでいて色っぽい、そんな声だった。
なにより、俺のことを知ってくれていたことが嬉しかった。
「そうっす」
「何で……」
それはこっちのセリフだ。
「俺、このアパートに住んでるんで」
「えっ!?」
彼女が声を上げた。
「二〇二号室っす」
俺が言うと、彼女の見開いた目がこぼれ落ちそうになった。
「私、二〇三号室です」
「えっ、隣? ……の吉本さん」
「はい」
こんな偶然あるのだろうか。いや、あった。
俺の胸は高鳴った。
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