5人が本棚に入れています
本棚に追加
体が落下し、はねられて地面に叩きつけられるまでのあいだ、理久は青い部屋にいた。
澪には言っていなかったことがある。
彼女を愛していなかった理由―――。
理久には、愛という感情が欠けていた。
愛を受けたことがなく、愛を知ることもなく、愛を与えることもなかった。
澪に向かって愛していると言いながらも、心に空いた穴に偽物の感情を詰め込んでいるだけだった。
愛せないのに、彼女といたって悲しませてしまうだけだろうから、別れた。
彼女を悲しませたくなかった。
彼女を泣かせたくなかった。
彼女に笑っていてほしかった。
彼女には幸せになってほしかった。
理久は、澪を――愛していた、のかもしれない。
それはもう、二度と分からないけれど。
そうして理久は死んだ。
最初のコメントを投稿しよう!