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平日の昼間、退職して時間が空いている恵琉は幸の職場を訪れた。もしかしたら、幸と同僚の会話を盗み聞き出来るかもしれない。
仕事場での幸は薄幸そうに見えながらも、的確に患者に薬の説明をしていた。夫の働く姿に胸がドキッとしてしまったが、それは心の奥に押し込める。ドキドキするのは私ではなくて、同僚の役割だ。自分がどきどきと胸を高まらせても意味がない。
患者の対応を終え、薬局の中の客は恵琉だけとなった。さすがに恵琉の存在に気づいていると思うが、仕事モードなのか夫の幸は恵琉に視線すら向けることがない。
「あ、あの」
さすがにここまできてそのまま薬局を去るのは恥ずかしいので、夫の幸に一言声を掛けようとしたが、途中で遮られる。
「あれ、恵琉さん。こんな平日の昼間にどうしたの?」
「ら、いや波多野さん。今日はこちらに来る予定はなかったはずでは?」
「いや、見積もりが早くできたんで渡そうかなと思って。ちょうど近くを回る予定があったから、ついでに」
この機会を逃すわけにはいかない。私の計画の成功がかかっているのだ。
「波多野さん。少しお話があるのですが、お時間よろしいでしょうか」
「自分の夫の前で他人を口説くとか、だいぶ頭おかしいね」
「別に口説いてなんていません。本当に話があったから声をかけただけです」
同僚は驚いた顔をしていたが、恵琉と二人きりで話すことに同意した。外で待っていてと言われたため、薬局を出て屋根の下で待つ。数分後、薬局から出てきた同僚はなぜか苦笑していた。
「ちょうど昼時だけど、一緒に食べる?」
「お願いします」
二人きりで食事というのは、不倫にあたるのだろうか。だとしたら、これはこれで離婚の材料になるということだ。望むところだと妙に気分が高まった恵琉は即答した。
「ねえ、本当に幸のこと、好きなの?」
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