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つい、強い口調で夫とのことをとがめてしまった。確かに、これで同僚の雷とかいう男性が女性だったとしたら、修羅場になっていたかもしれない。ちらりと同僚の表情を確認すると、顔は笑っていたが、目の奥がまったく笑っていなかった。どうやら、相手にとって自分の存在は幸を拘束する邪魔な女らしい。
「まあまあ、恵琉さんもこう言っていますし、僕も彼女の意見に賛成です。僕は雷の同僚だけど、それと同時に恵琉さんの夫だから」
「だから、俺と気軽に飲みにも行けないということか。はっ、見損なったぞ。恋人と友達だったら、恋人を選ぶってやつか。まったく、これだから女ってやつは」
恵琉と雷の間に一触即発の険悪な空気が流れるが、そんな空気を読まずに発言したのは夫の幸だった。恵琉としては嬉しい言葉だが、今このタイミングでの言わないでほしかった。案の定、雷は夫の発言に目を吊り上げて怒っていた。
「何言ってんだよ。恵琉さんとお前は恋人と友達じゃないだろ。比べること自体がおかしい」
「おかしくないだろ。俺とお前は」
「そこまでにしてください!」
このままだとおかしな内容に話が発展しそうだった。夫を取り合っての修羅場になりかねない。この無意味な争いを止める必要がある。そして、このまま今日は雷という同僚にはお帰り願おう。後日、どうせ二人きりで飲みに行く約束を取り付けているのだ。そこで仲直りしてもらおう。恵琉の声は思いのほか、部屋に響いた。普段はあまり大声を出さないので、夫の幸は驚いていた。
「別に俺は幸とけんかしたいわけじゃない。悪かったな。お前の奥さんを悪く言って」
「こっちこそ、分かればいいんだ」
恵琉の言葉は意外な効果をもたらした。二人はなぜか、急に仲直りを始めた。こうしてみると、恵琉が悪者みたいに感じてくるから不思議だ。どうして、幸の妻である自分が肩身の狭い思いをしなければならないのか。
(とはいえ、計画は順調に進められそうだ)
これだけ親密な仲ならば、恵琉が背中を少し押すだけで二人は禁断の同性同士の恋に目覚めるかもしれない。
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