開かない金庫

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 小さな町工場の社長だった親父は、一日中、ときには休日も菜っ葉服を着ているような、仕事中毒の人間だった。俺たちきょうだいは、小さいころ、親父に遊んでもらった記憶がない。そんな親父に工場を継ぐように絶えず言われ続けて、ついに、十八のとき、家を飛び出してしまった。  しかし、学歴もなく、保証人もいない俺に、まともな職はなかった。アルバイトで食いつなぎ、今は臨時工の仕事で寮に住まわせてもらっているが、将来など考えられず、その日暮らしをしている。    翌週、パチンコで大負けして、有り金をすってしまったとき、名案が閃いた。親父はもうホームに入っているから、実家は空き家だ。家探しすれば、小金くらいは見つかるだろう。  その夜、実家の玄関の錠前に、十年前に使っていた実家のカギを差し入れてみた。  回った! 換えていなかったんだ。  明かりをつけず、そっと中に入った。懐中電灯で、現金を置いていそうな、心当たりの所を捜した。一階のダイニングの食器戸棚、二階の親父の書斎の机、両親の寝室の和箪笥。何も出てこなかった。
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