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どうしたんだろう。俺は原田、と呼ばれたおばちゃん店員さんを見上げる。彼女は俺達の肩をぽん、と叩くと言ったのだった。
「特別なプレゼントが欲しいのよね?だったら、おばちゃんについて来て頂戴」
ひょっとして、何かアテがあるのだろうか。俺達は、店を出て行くおばちゃんのあとを追うことにした。
彼女が入ったのは、隣のブロックにあるビルの一回。そこには百円ショップ、の文字があった。
「ご両親は、動物とか好き?」
「うん!ママもパパもパンダが大好き!僕と兄ちゃんも好き!」
「そう、じゃあこれなんかどうかしら」
彼女が指さしたのは、百円ショップで売られている小さなパンダのキーホルダーだった。
一つ、消費税込で百十円。確かに、これなら四個買うことも可能ではあるが。
「結婚記念日のプレゼントなのに、キーホルダーなんかでいいのか?可愛いけどさあ……」
俺が渋井顔をすると、原田さんは“いいのよ”と笑った。
「おばちゃんにもね、あんた達くらいの小学生の子供がいるの。……可愛い可愛い子供達にプレゼントされたものなら何でも嬉しいわ。それに、キーホルダーって選択は悪いものじゃないわよ。バッグとか、いろんな場所にくっつけて持ち運べるし……食べ物と違ってずーっと残るものでしょう?四個あるから、お揃いで買える。家族の絆ってかんじで、いいと思わない?」
「家族の絆……」
「それで、これを見るたびにみんなで思い出すの。あんた達が今日一生懸命、結婚記念日のプレゼントをお小遣いで買おうと頑張ってくれたこと。それを見るたび、きっとお父さんとお母さんも力が湧いてくると思うわ。私だったら、見るたびに頑張れちゃうわね!」
「……そっかあ」
大人が恥ずかしくないもの、とか。もっと記念日らしいものを買わなければいけないんじゃないか、とか。そういうことに拘っていた自分が、なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。
俺は弟と顔を見合わせて笑う。そうだ、大事なことはきっと、値段とか、特別感とか、そういうものではなくて。
「……ありがとう、おばさん。俺達、これ買うよ」
そうだ、きっと。結婚記念日のプレゼントを百均で買ったことを、二人は咎めたりなんかしない。
二人だけじゃなくて、四人分買ったことだってむしろ喜んでくれるはずだ。
兄弟の絆と、家族の思い出と、それからケーキ屋さんのおばさんのあったかい気持ち。
それらを全部詰め込んだ、百円のパンダのキーホルダーは。
二十年過ぎてもなお、俺と弟のバッグで揺れ続けることになる。
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