キラキラ・ハッピーデイ

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 ***  我が家は、お世辞にも裕福とは言えない家庭だった。  両親は共働きだが、どちらも派遣社員。工場で夜遅くまで働いているし、完全週休二日制ではないので休みの日も土日固定ではない。一緒に休めない日も多く、なかなか家族でどこかに遊びに行ったりもできなかったりする。  それでも可能な限り、俺達兄弟の誕生日なんかはお祝いしてくれて、ちょっと奮発してご馳走を作ってくれたりもするし、頑張って休みを合わせて遊園地に連れていったくれたこともあるのだ。ボロアパートで家族四人の生活。友達の家のように流行りのゲームがあったりするわけではないけれど、それでも俺は自分の家族が大好きだし、幸せだと心からそう思っている。忙しい中でも記念日を絶対忘れない、ママとパパのそういうところが大好きだ。  だから、たまには俺達で恩返しがしたい、なんてことを思ったのである。  小学四年生になった俺と、二年生の理貴。二人で、結婚記念日のお祝いを買おうということになった。ただし、先ほど述べたように俺達はともに毎週のお小遣いがたったの百円しかなく。ついでに言うなら、おじいちゃんやおばあちゃんからもらったお年玉は銀行に預けられているので、俺達で引き出すことができない(俺達が頼めばママが引きだしてくれるかもしれないが、結婚記念日のサプライズをしたいのにママに用途をバラしてしまうのは本末転倒である)。  今手元にある、二人合わせて六百三十五円。これが、唯一の軍資金だと言っても良かった。コンビニでこっそりお菓子や肉まんを買い食いするのを我慢して我慢して、やっと溜めたお金である。 「うおおい……」  俺はスマホでケーキ屋さんのホームページを見て白目を剥いた。土曜日の今日、二人でオーソドックスに結婚日の記念ケーキでも買おうかと思ったのだが。 「ホールケーキたっけええええ!安いのでも二千円くらいするう……」 「マジで!?ケーキ買う人ってみんなお金持ちなの?」 「ていうか、ビンボーな小学生が買うことは誰も想定していねーんだと思われる……うおお」  丸太のような形の四角いケーキならばもう少し安いが、それでも消費税こみで千円弱の値段がついている。六百三十五円では到底足らない。  三角形にカットされたショートケーキなんかなら三百円ちょっとで買えるものもあるようだが、そもそも記念日に家族全員分買えないのではなんの意味もないのだ。いや、せめてママとパパ、両方に一つずつまともなケーキを買えないようではお話にならない。 「……ケーキが一番、お祝いってかんじがして良いと思ったんだけどな。ママもパパも、甘いもの大好きだし」 「だな。……でもこの値段じゃ諦めるしかねー」  今日は土曜日。二人とも仕事だが、今日のシフトならば夕方には帰ってくるはずである。それまでにどうにかプレゼントの準備をしておかなければいけない。  もっと前にケーキの値段を調べておけば良かった、と俺は心の底から後悔した。食べ物ならば当日に買った方が良いからと、今日になるまで調べるのを放置してしまったのである。パケ放題ではない非常に安いプランでスマホも契約しているので、あまり通信料をかけないようにしているというのもなくはないのだが。 「仕方ない、二人で町に行こう。何か他にプレゼントとしていいもの無いか探して見よう。まだ時間はあるし」 「そうだね、兄ちゃん」  俺の提案に、弟も頷いた。青い、車のアップリケがついた財布に大事に大事に軍資金を仕舞いこむ。 「ケーキ以外にも、このお金で買えるプレゼントがあるかも。食べ物じゃなくてもいいよね」
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