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考えが、甘かった。
いっそママとパパに、それぞれ別の物を購入するのもいいだろう、なんて。
それはつまり、なんらかの商品を二個買わなければいけないということ。一人あたり、三百円ちょっとしか使えないということでもある。
「兄ちゃん、このコップは?かっこいいよ!」
「パパはともかく、ママにゴジラのコップ使わせるつもりなのか!?ていうか、値段見ろ値段!一個八百円だぞ!?」
「兄ちゃん兄ちゃん、こっちのアクセサリー、ママがつけてるのに似てるよ!こういうの好きなんじゃない?」
「趣味はいいけど残念、それは二万円する……」
「兄ちゃーん!このハンカチ!」
「そのルカリオのハンカチはお前が欲しいだけだろ!?趣旨忘れんなー!!」
「兄ちゃん、目が泳いでるよ。自分も欲しいんじゃないの?」
「めっちゃくちゃ欲しいに決まってるだろ俺の推しポケだわ!!」
まあ、こんな具合である。小学生二人で町でお買い物をして、ストレートに目当てのものを探せるはずもなく。
そして、大人向けのプレゼントを買うような金銭感覚があったはずもない。子供の玩具やお菓子程度なら勿論六百円ちょっとの予算で買えるものもあったが、大人であるママとパパにその程度のものを渡すわけにもいかない。小さな女の子用のチャチなアクセサリーや、男の子向けの可愛いハンカチなんかを二人が使えるとは到底思えなかったからだ。
気づけば自分達が欲しいものを次々雑貨屋、お菓子屋で見つけてしまっては、目移りして喧嘩になりかかる始末。
一度お昼ごはんを食べに家に帰り、そのあと今度は駅の向こうのショッピングモールまで歩いて行ったが結果は同じだった。
むしろ、若い男女がお買いものをするような店では、子供が簡単に買えるような商品など殆ど売っていない。バーゲンになっている衣類もあったが、よくよく考えてみれば大抵の衣服の類は本人に試着してもらわなければ失敗が起きるものである。
靴下ならギリギリ二人分買えそうではあったが、これも“そういえばこの間、ママとパパが新しいの何着かバーゲンで買ってなかったっけ”の弟の一言で却下となったのだった。
パパのネクタイなんかは値段的に論外である。大人が身に付けるような女性物のアクセサリーも然り。
結局。空がすっかりオレンジ色に染まる頃、俺達はとぼとぼと帰路につく羽目になったのだった。
「……どうしよう、兄ちゃん」
弟は目を真っ赤にして、青い財布を握りしめている。
「ごめんなさい。僕が、もっとちゃんとお金溜めてれば」
「いや、俺もマジで悪かったっつーか。……もっとずーっと前に、適当に言い訳してお金下ろして貰っておけばよかったな……うん」
たった一日。たった一日しかない、特別な日。
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